夕影 6









「ツッ君、ほら、ちゃんが来てくれたのよー?」



もはや毎度御馴染みになった沢田家に通されると、

居間の真ん中に敷かれたふわふわのラグの上でツナがちょこんとおすわりしていた。

私がその隣に降ろされるとこっちを向き、ちょっと目を見開いてから嬉しそうににっこりした。




・・・っか、可愛いぃいいいいい!!!



うふふ、とこちらも怪しげな微笑みを返し、(・・・)ふわふわな髪を存分に撫でさせてもらった。

これがまた気持ちよくてやめられないんだよねぇ・・・・えへへ。



・・・・・・あれ、なんだか思考がどんどん危ない方向に行っていないか。

・・いや、大丈夫。これはただ純粋にツナの可愛さ故の行動だから!多分!!






「ふふ、ちゃんとツッ君、本当に仲が良くて嬉しいわ〜v」

「ですよね、ですよね! ちゃんが相手だと、綱吉君も泣かないし・・・」





そう、ツナったら、他の赤ちゃんと会わせるとすぐに泣き出すくせに、

私には近頃そういったことが全然無い、らしい。(奈々さん談。お母さんはいい加減、

奈々さん抜きで公園にも行ってみるべきだと思う。奈々さんがいても後ろに隠れてるし・・・)

むしろ先程見た通りにこにこし始めるほどで、見てるこっちは凄く得した気分、なんだけど・・・


「ん!」

「・・・・・っ。(いだだだだ!)」


・・・この、髪を引っ張る癖が直らないのは痛い。(2つの意味で)

多分これは、私がツナの髪を撫でているのを見て、彼がそれを真似しているのではないか、と思っている。

ということはつまり、止めさせるには私がツナの髪を撫でなきゃいい話で、

でもそれはそれで私の気がおさまらないわけで、・・・・・なんとも難しい選択である。



ほぼ代わり映えのない日常の中、この、ツナのほあほあした髪を撫でるのは、私の唯一の楽しみと言っていい。

仕方ないから、多少、いや大分痛くても、我慢してあげよう。

いつものようにそう自己完結させて、今日も私はツナの髪を堪能するのだった。

・・・なんだか代償が大きい気がするけど、気にしない。







一人黄昏ていたら、お母さんが私を呼んだので手を離し(同時にツナの手も離れた)、そちらを向いた。



ちゃん、ちゃん・・・おいで?」


なんで疑問系?と思ったが、彼女の目が真剣なのを見て、やっとこさ、今日の使命を思い出した。

ここで歩いて行ったらお母さん卒倒するかな、とあながち冗談にも聞こえない事を考えながらも手を前につく。

その体勢からすたすたと若干急ぎ気味にハイハイしてお母さんのもとに辿り着き、

抱き上げられて2人の祝福に包まれ・・・る直前に私は硬直した。



ちゃん!良かった、やっぱり出来たわ!いい子ね!」

「本当、よく出来たわね、ちゃん!すごいわ〜」



きゃあきゃあと歓声をあげる2人の声も耳に入らない。

私の視線の先には・・・・・・・・・・・・何故か感動して咽び泣く家光さんの姿。





・・・家光さん、さっき、俺、眠いから昼寝してくるわーとか言ってませんでしたっけ。

どうして居間の入り口でドアをちょっぴり開けて隙間から覗いてるんですか。

もしかして最初のお母さんの怯えっぷりにちょっと気をつかったとかそんなのですか。

だったら逆効果です。私でさえびびりますよ。お母さんだったら大絶叫しますよ。

・・・・だから、お願いだからせめてそこから出てきて!怖いよー!!!!!



「・・・っふぇ」


思わずお母さんの首に手を回し、ぎゅう、と抱きついた。

本気で怖い。軽くホラー入ってるってあれ。


「え、ちゃん、どうしたの?」


お母さんが心配そうに聞いたけど答えられるはずも無い。

と言うより、答えられたとしてもお母さんにだけは言えない。きっとトラウマになるから。

後々、およそ12年ほど後のためにも、お母さんの沢田家に対する印象がこんな所で悪くなるのは避けたい。

いや、普通ならこんな風に印象が下がることなんて無いんだけど。




よしよし、と慰めるためか頭を撫でられながら、私は今日密かに立てていた計画:つかまり立ち を断念した。

このままつかまり立ちなんてしたら、家光さんのホラー度がどうなるか、考えたくも無い。














その後、何故か私とお母さんも加えて昼食をとることになった。

お母さんは家光さんがいるせいか遠慮しがちだったけど、奈々さんが勢いで押し切っていた。

奈々さんのフレンドリーさは凄い力を持っているんだなとつくづく感心してしまう笑顔。

懐が広いと言うかなんと言うか。









「・・・うわー・・・奈々さん、これ、綱吉君が全部、食べるんですか?」

「そうよー。・・・やっぱりちょっと多いかしら?」

「・・・・・(ちょっと?)」


ツナの前にうず高く盛られたごはん。ちょっととか言うレベルじゃない。超多い。


「うちのちゃんが少食だからわからないですけど・・・多分、凄く多いと思いますよ・・・?」

「そうなのよねー。ツッ君ったら、あげるだけ食べちゃうから、ついこんな量に・・・」

「健康的でいいんじゃないか?」


あああ・・・このままだともしかしてメタボツナ完成?!

奈々さん、家光さん、いくら可愛い我が子でもこの量は危険だよ!


「♪」


ってああ!?もう食べ始めてるし!しかも早い!


「ホントに早いですね・・・綱吉君」

「でしょう?量を減らさないととは思うんだけど、食べてる時の幸せそうな顔を見るとやめられなくて・・・」



奈々さん、気持ちはわかるけど、餌付けじゃないんだから!










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