夕影 4







「うぅ・・・・」


よ、よし。とりあえず落ち着こう。落ち着こうじゃないか、私。


何がどうなってこうなったかはもうこの際気にしないことにしよう、うんそうしよう。

生まれ変わりだけなら、なんとか輪廻転生的な考え方で在りえるかもとは思ってたけど、

世界まで変わってるとなるともう訳がわからないし、考えるだけ無駄だ。

それに、今は原作の時期よりだいぶ前。焦ることはない。


そうだよね。もう結論:トリップした上に転生しちゃいました☆なノリで行けばいいんだよね?!


思いっきり知ってる漫画の世界でよかったじゃないか。

先の展開がわかってるって有利じゃないか。

前向きに、そうポジティブに行こう。

日常編の詳細忘れかけだけど!





「はいっちゃんの分よ〜」

「あぅ?」


無意識に受け取ったのはストロー付きの水筒。

そこで初めて周りを見渡すと、そこはもう店内ではなく、

お店の外に並べられたテラス席のパラソルの下だった。春の日差しが暖かい。

私はつなよし君と一緒のイスに座らされ、テーブルの上にはお母さん達が買ったのであろうケーキが二つ。



・・・・・・あああああ食べたい!食べたいよ!

こんなおいしそうなケーキを目の前に出されて食べられないなんてイジメだ!


そりゃ、今の私は歯も生えてない赤ちゃんですけどね?

精神は18歳なんだよ・・・





心の中でぶつくさ文句を言いながらも、大人しくストローに口をつける。今日はりんごジュースか・・・

見てろよ、あと数年も経てばケーキぐらい、ケーキぐらい・・・!



ぎらぎらとケーキを見つめていたら、す、と影が差した。


「・・・?」


疑問に思って振り向くと、そこには先程から横に座らされてるつなよし君。

・・・・ええいもう面倒くさい!未来のボンゴレ10代目ボス(仮)、ツナと呼んでやろうじゃないか。


で、つなよし君改めツナはこっちに手を伸ばして、・・・私の手から水筒を奪い取った。




・・・・え?ちょ、何してんの?! 




「ぅあー!(私のりんごジュース!!返せええええ!!!)」

「う!」



年甲斐にも無く、いや年相応に水筒を取り返そうとするが、相手はいやいやをするように丸まり、

がっちりとホールドしてしまっているのでちょっとやそっとじゃ外せない。

さっきの頭突きといい、無駄に体力のある奴だ・・・

そもそも、私の水筒のどこに魅力を感じたんだ。それともりんごジュースが欲しかったのか?



「あ、こらっツッ君!駄目でしょちゃんの取っちゃ!」

「!!」



あーあ、怒られた。

でも、この展開はもしや・・・



私の一抹の不安をよそに、奈々さんがツナから私の水筒を取り上げ、こちらにはい、と手渡した。

その時点でもうツナはふるふるとその眼を震わせて・・・今にも泣き出しそうに見える。

おまけに「ちゃん、ツナがごめんねー」と私の頭を撫でる奈々さんはそれに気がついてなさそうだ。




奈々さん奈々さん、私のことなんてどうでもいいから!ツナ見てツナ!

思いっきりこっち見てるよ!泣きそうだよ!気付いてー!!


・・・って良く見たらツナの水筒そこに転がってるけど、あれ空になってるじゃん!

やっぱお腹空いてたのか!凄く空いてたのか!


・・・ってああ!そんな事言ってる間に・・・!





「・・・ぅえっ。 ・・・う、ぅあ・・・っ」


あー・・・ほらほらやっぱり来た!って私、真横にいるんだから大声は勘弁っ・・・


「・・・っ・・・うあああああああああ!ぁああああ!!!

「・・・・・・っ!!!(う・・・煩・・・っ)」





予想通り、相当な音量で大泣きし始めたツナ。

煩すぎて、私の中のいろいろな計器が振り切れそう・・・か、勘弁してください、本気で!



「まあ!でもねツッ君。人の物を取ったらダメなのよ〜?」

「取り上げたのが駄目だったのかしら?」



何をのんびりしてるんだお母さん達!!どうでもいいから早く泣き止ませてってば!

こちとら10センチも離れてない所で叫ばれて限界なんだよ・・・!


だああ! もう、こんな水筒あげるから!泣き止んで!むしろ泣き止め、今すぐに!!


「ん!!」


半ば押し付けるようにツナの手に水筒を握らせた・・・・瞬間。



「うああぁぁ・・・・う?」



泣 き 止 ん だ 。立ち直り早っ!単純!いや赤ちゃんなんだからしょうがないけど!





水筒を手にした途端にぱぁっと顔を綻ばせたツナは、早速ストローからジュースを飲みだした。

その早いこと。あっという間に水位が減っていくのが見てとれる。

あまりにも必死で飲むので、何かもう、水筒取られたとかがどうでもよくなってきた。

あんな小さなことでムキになった自分も自分だ。何やってんだ私。心まで幼児化してどうする!




「す・・・凄いわちゃん!なんていい子なの!!」

「ツッ君とは大違いね!」




お母さん達が口々に私を褒めてるけど・・・どうでもいいや。

ほらツナ、この調子でどんどん食べて、将来雲雀さんぐらいは身長越すんだぞー?


ほあほあして気持ちいいツナの頭を撫でながらつい、にやにやしそうになってしまった。

将来、ツナに身長が負ける風紀委員長を想像したからなのだが、

もし未来の風紀委員長にこの脳内がバレたら確実に咬み殺されるだろうな・・・







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