夕影 3










「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・っふえ」

「!?」



あまりにもびっくりしてまじまじと見つめていたのが悪かったのか、

見る見るうちにつなよし君の目に涙が溜まり、今にも泣き出しそうな雰囲気になってきたので焦る。

こんな至近距離にいるのに、またあんな大声で泣き叫ばれては私の鼓膜がもたない。

かといって子供の泣き止ませ方なんて知らないのでどうにも仕様が無い。


あああどうしようどうしよう!どうやって泣き止ませれば?!

ていうかそもそも自分からぶつかっといて泣くなよ!こっちが泣きたいよ!




じわっとこちらにまで涙が滲む。あ、ヤバい、本当に泣いちゃいそう。




赤ちゃんになってから、こういう場面で感情の自制ができないのは困る。

いつもならお母さんが抱っこしてくれただけで自然と心が落ち着くのに、今はいない。

その事実が更に私を追い詰めて、溢れ出た涙を自分の服の裾で拭った。




「・・・・・(あれ?)」



そこでやっと、さっきからつなよし君が一言も発していないことに気がついて、顔を上げた。

驚いたことに、涙は引っ込んでいた。・・・びびった顔はそのままだが。


もう泣かないだろうか。試しに手を伸ばし、髪の毛に触れてみた。



「う?!」

「ぅあー・・・」



ほ・・・ほあほあしてる!凄く気持ちいいんですけど!何コレ!感動!



想像以上の感触につい夢中になっていると、ふと私の頭に何かが触れた。

見ると、つなよし君が私と同じようにこっちの髪の毛を触っているではないか。

あまつさえ、どういう訳か容赦無しに掴んできた!



「っ!(いいい痛い痛い痛いっ!?)」

「・・・あー!」


しかも掴みながら彼の目はきらきらしている。

ちょ、ちょっと待て。私の髪はおもちゃじゃ無いんだぞ?!

喜んでくれてるのはいいんだけど、私の髪を巻き込まないでくれ。

じゃないとまた痛くて泣いちゃうから私!




どうにか穏便に髪の毛を脱出させようと検討した結果、穏便な作戦で行くことにした。

また泣かれたら困るし。




その方法とは即ち・・・くすぐり攻撃!!



「えりゃ!」

「う?」



なんとも気の抜けた掛け声と共に両手をつなよし君の腰の辺りに移動させた。

何が起こるか知る由もない彼は?マークを浮かべ、ぎりぎりと私の髪を掴んでいたその拘束を一瞬緩める。

・・・今だ!



こちょこちょこちょこちょこちょ・・・・


「っきゃははははははははははははは!!!!!!

「ふぁ?!」



・・・・・・思ったより効果抜群だった。

髪を離してくれたのはいいけど、効果的過ぎて結局泣かれたのと同じくらい煩いよ・・・!み、耳がっ!




「あら!ツナったらご機嫌ねー。ちゃんと一緒なのがそんなに嬉しかったのかしら?」

「ほんと。さっきまで泣いてた子には見えないわ!」



・・・・あー・・・お母さん達まで来ちゃったよ・・・ぅおう?!



再び浮遊感を感じたと思ったら抱き上げられていた。荷物を持っている。

やれやれ、やっと帰るのか。


・・・と安心していたのだが、現実はそう甘くなかった。



「これから奈々さんと綱吉君と一緒にケーキ屋さんに行くのよ。

 ちゃんと綱吉君は食べられないけど、我慢してね〜」


・・・・まだ帰れないのか・・・














しかし数分後。



「ここ!ここですよ奈々さん!今週一位のケーキ屋さん!」

「びっくりしちゃうわよねー。偶然地元のお店が紹介されるなんて!」



「・・・・・・・;(あ、ありえない・・・)」


私はあるケーキ店を前に、硬直していた。

正確には、ケーキ店の名前とその所在地に。



・・・『ラ・ナミモリーヌ』。どこかで聞いたことあるなぁって思ってたけど。



ナミモリ・・・並盛、のことだよね。実際、そこの電柱にも並盛町、って書いてあるし。

こんな地名、現実には無い。少なくとも私が赤ちゃんになるまでは。


加えて沢田ななさんは、沢田奈々さん。

沢田つなよし君は、沢田綱吉君だとすると、認めたくはないけど一つの説が浮かび上がる。


・・・ここが、漫画『リボーン』の世界だってこと。




・・・・・・・なんてこった。

ある意味生まれ変わったことより衝撃的なんですが。







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