夕影 2
「よし、着いた!」
「う(早っ)」
目的地には一分かからずに着いた。
沢田、という表札が掛かっているお宅。
さわだ・・・何か聞いたことあるような。どこだったかなー・・・
何しろ6ヶ月何もしないで赤ちゃんやってたから、そろそろ記憶が薄れてきそうなんだよね。
ピンポーン
『はい、沢田です』
「あ、です」
『あら、いらっしゃい!今開けるわね』
ガチャリと玄関のドアが開き、出てきたのは真っ直ぐな茶色の髪を肩より伸ばした綺麗な女性だった。
「奈々さん!今日はお招きありがとうございます!」
「いいのよ〜。さ、入って入って!」
「じゃあお邪魔しますね!」
ほへー、沢田なな、さんっていうのか。
・・・あれ?やっぱり私、どっかで聞いたことあるよね?
それも、赤ちゃんになる前に聞き覚えがあるような・・・
でも知り合いとかじゃなくて、沢田、っていう漢字に物凄く見覚えと聞き覚えが・・・
「ちゃんも大きくなったわねぇ。この前はお昼寝中だったから、残念だったのよね」
「そうそう。ちゃんったら全然起きないんだから、困っちゃったわ」
顔を見合わせてうふふ、と笑い合うお母さんと沢田さん。
どうやら私がお昼寝している間に会いに来てくれていたらしい。
こんな体じゃなけりゃ起きていられたんだろうけど・・・もったいないことしたなあ。
「今日はちゃんと起きた顔も見れて嬉しいわ」
「私は綱吉君に会えるのがもう楽しみでたまらなくて!」
「ふふ、うちのツナったら、この頃食欲旺盛でね、凄いのよ〜」
そっか、沢田さん家にも赤ちゃんがいて、お母さん同士で家に呼んでる訳か。
つなよし君。男の子かー・・・・・・・・ってちょっと待て。
やっぱり聞いたことある!
フルネーム沢田つなよし。つな、って呼ばれてた。
お母さんが沢田ななさん。
・・・『リボーン』に出てくるキャラじゃん。
え?いやいや何言ってるんだ私。マンガやアニメじゃないんだよ?これ現実だから現実。
きっと偶然だよね。まあ、ありがちな名前だし。
もしくは沢田ななさんが偶然『リボーン』ファンで、息子につなよしって名前を付けたか。
もしそうだったら、この人とはお友達になれそうだなー。
年の差が気になるけど!
「まあ!随分立ち話しちゃったわ!恵里奈さん、重かったでしょう。居間へどうぞ。
あ、ちゃんはどうしようかしら?」
「そうねー・・・どこか寝かせておける場所があればいいんだけど」
「じゃあ、ちょっと狭いかもしれないけどツナと一緒のベビーベッドでいいかしら?」
「じゃあお願いするわ」
「よし、そうと決まれば早速「ぅぁあああああん!!!」
突然、子供の泣き叫ぶ声が響いて、ななさんの台詞を遮った。
何の泣き声かと、思わずびくっと硬直してしまったが、すぐに思い当たった。
先程話に出ていたつなよし君だろう。それにしてもデカい声だ・・・
ななさんがどうするのか見守っていると、特に慌てた様子でもなく、「あらあら」とドアを開けた。
それにより、未だ泣き続けている声が更に大きく響いたが、ななさんがスタスタと部屋の中に入って行ったので
お母さんがそれに続き、よって私も抱っこされたまま部屋に入った。
「うあ、うあぁああああ・・・!」
「もー、今度はツッ君ったらどうしちゃったの?お腹空いたのかしら?
ん? ・・・あらあらまあ、ぶつけちゃったのねー。ほら、痛くない、痛くない」
部屋(居間の様だ)に入ると、真ん中にベビーベッドが置かれているのが目に入った。
ななさんはそこから茶色のほわほわした髪の毛の赤ちゃんを抱き上げ、優しく頭をさすっている。
その甲斐あってか、だんだんと落ち着いたようで、徐々に泣き声が収まっていった。
「えぐ、あう、うぅ・・・・」
「いい子、いい子。大丈夫よー」
「綱吉君、どうしちゃったのかしら?」
心配そうにお母さんがななさんへ話し掛けると、ななさんはつなよし君を優しくベッドへ戻しながら、
ちょっと困った風に微笑んだ。
「ツナったら、おっちょこちょいでね、ベッドの柵に自分で頭ぶつけちゃったみたいなの」
「ええ!だ、大丈夫なの?!」
「大丈夫大丈夫。いつものことなのよ」
「・・・(それはそれで問題なんじゃ・・・)」
声には出さず(出せず)、心の中で冷静に突っ込んでみる。
いつもって、それ、おっちょこちょいの域を越えてるんじゃないだろうか。
自分で頭ぶつけるって。自滅かよ!
そのうちベッドから転落しかねないな、つなよし君・・・
「・・・う?!」
と、不意に浮遊感を感じ、身を強張らせる。
一瞬の後に体がふかふかの布に包まれ、ベビーベッドに下ろされたのだと分かった。
「じゃあ、ちゃんは綱吉君と仲良くしててねー」
そんな声と共に頭を撫でられ、お母さんは離れていった。
ベッドの柵の間から視線で追うと、居間のテーブルに広げられた何かの冊子をななさんと見ている。
私が確認できたのはそこまでだった。
ごすっ
「ぅ゛?!」
突如、結構な衝撃を頭に食らい、私は前につんのめった。
痛い。地味に痛い。
何が起こった。・・・って考えなくても分かるか。
つなよし君の奴、そこに柵があろうが私がいようがお構い無しにまた激突しやがったな?!
もー・・・こりゃ、しっかり押さえてないと私の身が危ないよ・・・
仕方無しにコロンと転がり反対側を向いた私は、そこで始めてつなよし君の顔をまじまじと見たのだが。
いつもと違う物が転がる先にあったことに驚きを隠せない、明らかにびびってる涙目の赤ちゃんのその顔が。
・・・『リボーン』のツナそっくりなんですが。
名は体を表すって言うけどさ。ここまでって凄いよね。偶然?
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