白いダリアと蒼い薔薇 宙 4
ソロモンとヴァンと三人でてくてく歩いて帰ってきて、お昼(サンドウィッチ)を食べた。
カールはいなかった。私達を待たず散歩に行ったらしい。
「勝手な人ですよね」と苦笑するソロモン。
何処からどう見ても、好青年そのものだった。
部屋に帰り、ドアを閉めてから、そのまま寄りかかる。
「はぁー・・・」
こわかった。
ソロモンが笑うたびに、その全部が貼り付けた物の様に見えてしまって。
そんなはずない。ただの思い込み。 私が彼の正体を知っているからそう見えるだけ。
忘れよう、忘れなきゃ。 うっかりぼろを出す前に。
目を固く閉じて、それからゆるゆると開いた。閉じる前と、世界は変わらない。
ふと、鮮やかな青が目に入って、顔を上げる。花瓶に入った花がそこにあった。
そういえば館に帰ってきたときにソロモンに預けて以来だったのを思い出し、近づいて手を伸ばし、際立って異色な、蒼い薔薇を一本抜き出し、花弁に触れてみる。
ぐ、と力を入れると丁度触れたその形に潰れ、指に蒼く色がついていた。
他の青い花とは何か違う色。
ソロモンやカール達にとっても、私の記憶にとっても、特別な意味を持つ薔薇。
・・・それが今、まさに、私の手の中にある。
「・・・いだっ!・・〜っ!!」
少し強く握りすぎて、棘が手のひらに刺さってしまった。・・・・これ、地味に痛い。
「ぐあーしくじった! げ、血出てる・・・」
消毒液、消毒液、と辺りを見回すが、もともと急に用意してもらった個室。絆創膏すら見当たらない。
「とりあえず拭くもの・・・ま、いっか。舐めときゃ直るだろ」
ぺろんと垂れた血を舐めたけど、もしかして傷口から未知の病原菌が、とかが思い浮かんでやっぱり手当てをしておくことにした。異世界まで来てそんな地味な死因は嫌だ。
「・・・とはいっても」
一応部屋から出てはみたけれど、さてこれから何処に行ったらいいのやら。
そもそもここが広すぎるのが問題だ。とてもじゃないけど覚えられる限度を越えている。
バタン。 階下で玄関の扉が音を立てた。そうか、下に行けば何かあるかも!
階段を降りていくと下からカールが上ってきた。
散歩から帰ってきたのかな。あ、機嫌は良さそう。
どうでもいいことをつらつらと考えながら目線で軽く会釈して擦れ違った、けどその瞬間腕を掴まれた。
・・・掴まれた?
「・・・・・・・」
「・・・・・へ?」
一体何が。腕は依然とがっしり固定されて、踏み出そうとした片足が宙でさまよっている。
体勢がかなり辛いが、カールの無表情と無言が怖くて何も言えない。
何だ。何が気に入らなかったんだ?せめて話すか離すかしてくれ!キツい!
「・・・・・あのー・・・何でしょう?」
「・・・・・・・・・これは?」
「・・・はい?」
何の話だ。これって何だ。
つっこみたいのを我慢してわからない、という風に首を傾げると、明らかに相手がイラッときたのが見てとれて焦った。
ま、ま、まって!また昨日と同じ展開になるの?!それだけは勘弁!で、でも「これ」だけじゃ分からないんです!
怯えたのが伝わってしまったのかカールはため息をついた。そして掴んでいた腕を少し持ち上げる。
「・・・何があったと聞いている」
持ち上げられた腕を見て、ようやく合点がいった。先ほどの怪我から血が出ていたのだ。
舐めただけでは止まらなかったらしい。思ったより出血していて、自分でも驚いた。
「あー・・いや、あの。ちょっとばかし薔薇の棘に刺しちゃいまして。だ、大丈夫ですよ?ちゃんと手当てしますから。・・・あ!良かったら救急箱の位置教えてくださいませんか?私の部屋に無かったものですから―――わ!」
機嫌を損ねないようにあははと笑って、ついでに救急箱について聞いたとたん、またもや腕を引っ張られた。
今度のは引き止めるためのそれではなく、はぐいぐいと引きずられていく。
階段を上り、廊下を通り、いくつかめのドアの前。・・・与えられた部屋ではない。
ということは。
展開からしてこの部屋の持ち主は・・・
「・・・入れ」
うわー!やっぱりカールの部屋なんですか、ここ?!
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