白いダリアと蒼い薔薇 蜜 22








「では、私共はこれで」

「はい。ありがとうございました」

「あ、ありがとうございましたっ」




あれから事後処理も済み、私とソロモンはヴァンの部下の人たちの車で本社に帰ってきた。

ヴァンとその直属の部下(誰だったか思い出せないけど、眼鏡かけてて実はスパイだった人だ、確か)の人は

直接研究施設に向かうらしく、現場で別れたのでいない。


夜なので会社の灯りは殆どが消され、見上げても寒々しい印象しか持てなかった。

・・・が、エントランスに入った所で駆け寄ってきた人が誰だか分かった途端、ほっと一安心。

アレンさんだ。





「CEO、おかえりなさいませ!」

「ええ。ロック解除ご苦労様です」

様も。寒かったでしょう、早く中へどうぞ」






促されて建物内に足を踏み入れる。必要最低限の照明しか灯っていないロビーは薄暗い。

先導して歩き始めた二人の後ろをついていくと、一呼吸置いてアレンさんが口火を切った。




「あの、CEO。車で帰ってこられたんですか?先程見えましたが・・・」

「はい、ヴァンの部下に送ってもらったんです」

「・・・ヴァンですか?どうしてまた、」

「実は、ちょっと襲われちゃいまして」

「え・・・えええ?!」




ここでソロモンがいきなりぶっちゃけた。

アレンさんが一瞬フリーズしたようだが即座に復活、驚きの声を上げる。

無理も無い。だって明らかにこの話題、気軽にさらっと言うものじゃないし。




「ま、マジですか!」

「ふふ、マジですよ」

「えー・・・いやあ、CEOに喧嘩吹っ掛けようなんて随分と命知らずな」

「あはは。勿論言葉通りにしてやりましたけどね」

「・・・、それってどういう・・・」




しかし、てっきり襲われたと聞いてソロモンを心配するかと思われたアレンさんは、

逆に相手のことを心配しだした。

更に続けられた物騒な言葉にも眉根を寄せるだけで特に言及しない。

・・・アレンさんは、ソロモンがシュヴァリエだってこと知ってそうだなー。




「まあまあ、その件は後で話します・・・っと。

 あ、アレンすみません。手っ取り早く後始末しておきたかったので、サンプルはヴァンの所です」

「・・・うええ?!サンプルって!

 ちょ、何ですか、まさか襲ってきたのってそこらのチンピラとかじゃなく・・・」

「二体も収容するとなると結構な人手が要りますからね。僕達だけでは無理でしょう」




だってアレンさん、『サンプル』とか聞いても自然に会話続けてるし・・・

それにしても会話を聞いてると、ヴァンとソロモン(+アレンさん)は最早別のグループなんだろうか。




「あ〜・・・俺、ヴァンの所へは流石に行きませんよ?一部でも持って帰れなかったんですか?」

「ふふ、大丈夫ですよアレン。・・・あともう一体、サンプルが残っているんです」

「? ・・・だから、それなら持って帰って・・・」

「とは言っても逃げられてしまったのですが・・・ですよね、?」




・・・・・はい?え、何、ここで私に振るんですか?

逃げられたサンプルって何だ、双子のシフじゃないなら・・・はっ!



ぎ、ギーのことですかああああ!!




「あ、あの、ギ・・・銀髪、の?」

「ええそうです。僕が見たところ彼は貴女に興味を示していましたし、近いうちに接触を図ってくるでしょう」

「そこを捕獲するんですね!そうか、様はこちらにいますから向こうから来てくれる、と」



う、うわあ二人共超ノリノリじゃないか!何でアレンさんそんなワクワクしてるの?!

捕獲ってちょ、ギー逃げて、超逃げてぇえええ!!




・・・あ、でも確かギーってもうちょっとで死んじゃうんだった。じゃあ大丈夫か。

本当なら小夜とハジを追っかける側にいた筈だから、断言は出来ないけど。

実際に遭遇した限りではすっごく元気そうだったしなあ。・・・あ、それはアニメでも同じかな?




「・・・って!今俺達、もの凄くナチュラルにサンプル発言しましたけど、様いるじゃないですか!!」

「ああ、そうですね」



おお、いい所に気付きましたねアレンさん!もうわかってて敢えて突っ込まないのかと思ってたよ。

ソロモンなんてまさにその筆頭だと思う。ああそうですねって!結構重要だろそこは!





「その・・・CEOはどこまで、・・・」

「ディーヴァが吸血鬼であることと、僕らがその守護者であること、あとは赤い盾ぐらいですかね」

「え、そんな所まで?大分踏み込んだ所までいきましたね」

「大事な娘ですから。あまり隠し事をしていてはいけないと思いまして」

「ですよねー」



私が話を聞いていたことに気付いてから、アレンさんは途端に慎重になった。

でも私にとっては逆にその態度が手がかりとなる。

どこまで、とソロモンに聞くという事は彼は随分事情を知っているんじゃないか。

ソロモンが私に話した事柄について『踏み込んだ所』って言ったのが気になるけど、

『サンプル』発言をしたアレンさんがまさか私が受けたのと同じ説明で納得してる筈が無いと思う。

そうなるとアレンさんはソロモンの嘘にわかってて乗っかってるってことで・・・

・・・人は見かけによらないなあ。




「そう言えば、僕がちょっと普通の人より特殊な所も見せてしまいましたね」

「特殊?・・・ええっと様、具体的にはどんな感じでした?」



特殊、という単語だけでは何処までのことを言っているのか判断できなかったらしく、

アレンさんは直接私にその内容を聞くことにしたらしい。

確かにソロモンの特殊・・・と言うより人間やめちゃいましたレベルな行動は多いからね。

私が直接見たのは・・・ディーヴァやギーから助けてもらった時の瞬間移動と、怪力?

・・・そう考えると私、まだ再生能力見て無いんだなあ。もうすっかり見慣れた気分でいたけど。




「えー・・・瞬間移動ができたりとか、・・・力が凄く強い、とかですかね?」

「ああ〜・・・了解です!」



とりあえず素直に見たままの事を答えると、一拍おいてアレンさんが納得したように頷いた。

・・・何、その妙な間は。

本当にこの人は何処まで知ってるんだか。やっぱり全部かな。









「・・・そうだ、忘れてました。これも一応報告しておきたいんですが・・・」

「何ですか?」

「・・・−ヴァが目を覚ま・・・・て、様の・・・い事に気付・・・・て・・・・・・・るんです」

「あー・・・わかりました。後で宥めておきますので、アレンはをお願いします」





いつの間にか私達は話をしながらもエレベーターに乗り込んでいて、

上昇し始めてちょっとしてからふと、思いついたようにアレンさんが切り出した。

どうやら私には聞かせたくない内容のようで、ソロモンに歩み寄り小声で耳打ちする。


街中で歩いている時や、昼間の社内では聞き取れなかったかもしれない。でも、ここは狭い密室。

さらに夜中のしんとした雰囲気のせいか、所々単語が聞き取れてしまい、思わず固まった。

どうやらディーヴァの目が覚めて、私が何か関係して、とにかくちょっとマズい事態らしい。

・・・となれば大方予想できるじゃないか。

ディーヴァが起きたらどうなるか、は今日屋上庭園で身をもって体験したばかりだ。

嗚呼、私は果たして、明日の朝日を五体満足で迎えられるんだろうか・・・・・乞うご期待!!







「・・・・・様?」

「・・・!? あ、はい!」

「着きましたよ。どうぞ」

「わ、すみません・・・」



混乱極まって思考に無駄なオチを付けている間にも、とっくにエレベーターは目的の階に止まっていたらしい。

『開ける』ボタンを押したまま微動だにせず待機していたアレンさんに申し訳なく、急いで降りた。

振り返ると続いてアレンさんが降りていて、ソロモンも・・・・・・あ、れ?



「え・・・あれ?」

「?どうしました、様」

「えと、あの・・・ソロモン、は・・・」



てっきり三人揃って降りるものだとばかり思っていたのだが、エレベーター内のソロモンには降りる気配が無い。

思わず首を傾げてソロモンを凝視してしまう。



「ああ、CEOはこれから少しやる事があるそうなので、ここからは私がお部屋にご案内いたします」

「すみません、。用事を済ませたら行きますけど、先に寝ていた方が良いかも知れません」

「・・・はい」



そう言えばさっき、ディーヴァはソロモンが何とかするとかそんな感じの事を言っていたような。

と、いう事はこれからソロモンはディーヴァの所へ?


そのまま見ていると、彼は上の方の階のボタンを押した。やっぱり最上階へ行くらしい。

尚も見つめていると笑顔で手を振られてしまった。

・・・一応ちょっと振り返してみたけど、閉まる扉の隙間から見えただろうか。



















「あ゛〜・・・つっかれたぁ」



私に宛がわれた部屋(仮)には驚くべきことにお風呂場まで付いていて、

嫌な汗(大半は冷や汗)をかいてしまった身体も心もリラックスすべく、とりあえずは入浴することにした。

・・・というか、部屋に着くなりアレンさんがお風呂の準備が出来ているのですがどうなされますか?って

聞くものだから半ば条件反射で肯定しちゃったという・・・



自分の流されやすさに微妙な気分になりながら踏み込んだお風呂場は予想以上の豪華さだった。

私のイメージではホテルとかのお風呂場ってシャワーが付いた浅い浴槽だったから、

まさかその浴槽が猫足付きで、たっぷりのお湯が湛えられているなんて実に予想外。

戸惑いながらも入ってみればその暖かさに案外気も身体も緩み、現在に至る、と。




「今日は色々あったなあ・・・」



それはそれは数多くの出来事が詰め込まれた、濃い一日だったと断言できる。


思い返せば朝起きてすぐジェイムズが睨んできたのは相当怖かった。

その後雑誌の件でソロモンが相当怒ってたみたいだし、

案の定ディーヴァは襲ってくるし、

危うく歌姫に絞め殺されかけるし、

外に出ればギーに捕まって首切られるし・・・・・


・・・・・あれ、なんだか一人で絶体絶命スペシャルやってないか、私。



・・・・・・・うん、大丈夫大丈夫。主人公達に比べればこんなの序の口だしね!













お風呂から出ると眠気がどっと押し寄せてきて、すぐさまベッドに潜り込んだ。

ふかふかの布の感触が気持ち良過ぎて、もう何も考えられない。

ああ、今日は本当に疲れた、取り合えずもう寝よう。

そう思ったかどうかも曖昧なぐらい、おやすみ三秒ぐらいのスピードで私は眠りについた。













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様ー・・・
あ、寝てた。じゃあいいか・・・・ってええええええ?!?!」

「?あら、アレンじゃない。どうしたの?」

どっ・・・どうしたもこうしたもありませんよっ!

 な、なんでそんな所にいるんですか?!」

「だめ?」

「駄目って言うか・・・CEOはどうしたんです?」

「ソロモン?ソロモンなら・・・あぁ、つまんない。もうばれちゃった」

「・・・・・ディーヴァ。やはりここでしたか」

「CEO!ちょっと、何なんですかこの状況は!?様死んじゃいますよ!ついでに俺も!」

「・・・それは、あそこの鍵をあえて閉めなかった兄さんに言ってください」

「あ、あの総帥に言える訳ないでしょう!?ななな・・・なんとかしてくださいよっ」

「言われずとも。・・・ディーヴァ。寂しいのはわかりますが、貴女の寝室は最上階の筈ですよ」

「嫌よ。あそこ誰もいないんだもの、面白くないわ。アンシェルも帰っちゃったし・・・」

「兄さんは仕事で急用が出来て一時的に帰っただけですよ。明日の朝にはまた来られます」

「でも・・・」

「セキュリティーが一番しっかりしているのはあそこですし、貴女に何かあったら、兄さんが悲しみますよ」

「・・・・・わかったわ。アンシェルが来るまでだったら戻ってあげる」




「おおー・・・CEO、総帥をダシに使うとは流石ですね!」

「本来はここまで依存しているのは問題なのですがね。

 ・・・さて、アレン。夜も更けてきたことですし、私はそろそろ支度します」

「え。・・・何の、ですか?」

「・・・少し、説得したい方がいまして。

 一人にすると危険なのでも連れて行きます。後のフォローは任せましたよ」

「へ?様を連れてったフォローって誰に・・・・・

 ・・・・・・・・・む、無理です無理です絶っ対無理です!!そっそれだけは勘弁してください!」

「・・・健闘を祈ります。まあ、殺されそうになったら『動物園』に行ったと言えばいいですから」

「その後殺されない保証はどこに?!」