白いダリアと蒼い薔薇 蜜 18
渡された服は白いタートルネックに赤系のチェック模様のスカートに黒のハイソックス。
それに加えて茶色のブーツが用意されていた。
スカートが長めだったことに安心して、先に部屋から出ていたソロモンの元へ行く。
似合ってますよ、と微笑まれ(だああ恥ずかし過ぎる!)、
彼が持っていた灰色のコートを羽織らせてもらうと(サービス良過ぎなんじゃ・・・!)
すっかり暖かくなった。
建物の外へ出ると、途端にひんやりとした空気に包まれた。
コートを着ているから心配は無いが、やっぱりベトナムとは違うのだと実感する。
あの館じゃ夜は蒸し暑くて、上着なんてとても着ていられなかったな・・・
レストランまでどうやって行くのだろう、と思っていたら、なんと徒歩だった。
てっきり今日観光した時みたいに車か何かで行くのかと思っていた。
ソロモン曰く、散歩代わりだそうで。
「外に出られる内は、出来るだけ楽しんでおきましょう?」
とも言われた。・・・それって、これから出られなくなるってこと!?勘弁!!
てくてくてく。
てくてくてく。
「・・・・・・・・」
ひたすらソロモンの横より少し後ろをキープしてついて行く。
その間、彼の背中だけ見ていても面白くないので周りの風景を眺めてみた。
辺りはすっかり日も落ち、濃い青色の空と点き始めた街並みの明かりが凄く合っている。
ふと、風景の一部が揺らいでいることに気付いてよく見ると、川面に映った夜景だった。
あんまりにも綺麗で、思わずそれに見入ってしまう。
「きれい・・・」
ゆらゆらと揺らぐ水面と、それにあわせて歪む夜景の灯り。
これが・・・これは、・・・・・本当に現実なんだろうか?
頬や手を撫でる夜風、
着ている服の暖かさ、柔らかさ、
地面に立っているという感覚、
窓から漏れる灯り、水面で揺れる灯り。
皆、私が今ここにあると感じられる。
だけど、ここは私がいた世界じゃない。
現実には存在しない、在るはずのない「BLOOD+」の世界。
なのに私はそこにいる。
寝て、食べて、話をして、苦しいと感じたり、嬉しくなったりできる。
解らない。
どうして私はこの世界にいられるんだろう?
・・・それともこれは、長い夢の途中なのだろうか。
朝起きた途端に忘れてしまう、一瞬にも等しい、ただの夢・・・・・
ぱしっ
「・・・っ!」
突然手を掴まれて、思わずびくりと身体が跳ねた。
す、と覗き込んできたソロモンの顔からして、どうやら何か心配させてしまったようだと焦る。
「・・・?どうしたんですか?」
「っあ・・・・え?ど、どうしたって・・・何が・・・」
「急に立ち止まってしまったので、何かを見つけたのかと思ったのですが、
心ここに在らずといった風だったので気になって。
・・・大丈夫ですか?気分や体調が優れないのなら、いつでも僕に言ってもらって構わないんですよ?」
「あー、いえ、そんなことは無いです・・・止まってしまってすみませんでした」
私は知らない間に歩みを止めていたらしい。
余所見ばかりするのはやっぱりいけないな、と俯いて、小さくため息を漏らす。
それが聞かれていたのかいなかったのか、彼は小さく私の名を呼んだ。
「」
「はい?・・・え」
落としていた視線を上げると同時に、先程から握られている手が再び包み込まれ、彼が再び歩き出した。
引っ張られるようにして私の足も動き出す。
「え、と・・・」
「ほら、こうすればもついてこられますよね?・・・風景に見とれてしまうのもわかりますけど、
あまりに遅いと、向こうの方々も心配してしまうので・・・行きましょう?」
「あ、はい」
本当は風景に見とれていただけで立ち止まったわけじゃないけど、本当のことは言えない。
何もいわない方が丸く収まるので、黙っておくことにした。
「この辺りの街並みは僕も好きなんです。仕事の合間によく散歩もしますし」
「散歩・・・明るいうちにまた来てみたいです」
「それぐらいなら出来ると思いますよ」
私の手が感じている、ソロモンの手の感触・・・暖かい。
これも現実なのだろうか、それとも・・・
そこまで思って、続きを考えるのをやめた。
もしもこれが現実ではなかったとしても、こんなにも嬉しいと感じられるのだから、いいじゃないか。
私にとってこの世界は自分の世界じゃないけど、ソロモンが私の手を握ってくれてる。
そのお陰で、私がこの世界に存在していることを自覚できる・・・気がする。
「・・・・・・よかった」
安堵感が身体を内から暖めている気がして、本当に小さく、そう呟く。
そして自分からも少し力を入れて、彼の手をきゅ、と握り返してみた。
・・・・・・ただ凄く恥ずかしくなっただけだった!
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