白いダリアと蒼い薔薇 蜜 16











「・・・・、、・・・・?」

「・・・・・・・・・、・・・・・・・・(あ、れ?)」





誰かが私の名前を呼んでいる。うっすら目を開けると、視界がオレンジ色に染まった。

・・・オレンジ色?何でだろ。

さっき、ソロモンとかアンシェルとかが話し合いしてたよね?ここどこ?



数回瞬きして、辺りに目を走らせる。・・・同じ場所だった。オレンジなのは、夕日の光だったようだ。

と、いうことは、私はまたもや眠ってしまっていたらしい。

・・・本気で私、寝すぎじゃないだろうか。

とは言っても実際寝てたのか気絶してたのか判断が微妙な所なのでなんとも言えないが。


ディーヴァの腕が首にもまわっていて、加えてそれがきつく締められていた状況では、

苦しくて意識も絶え絶えになって当然だと思う。

ぶっちゃけ、ソロモンたちが話してたこと、ほぼ聞けなかったし。まあ大体知ってるからいいけど。


そう自己完結して、再び目を閉じた。目は覚めたけど、やっぱりまだ眠い。もう一回寝たい・・・





「・・・・・?大丈夫ですか?起きてます?」

「・・・んぅー・・・?・・おきてますよー・・・」

とりあえず起き抜けの寝ぼけ眼で返事したら、信じてもらえなかったらしい。

くすくす笑われて、全然起きてないじゃないですか、と声がして、それから突然、全身の圧迫感が消えた。



「・・・?」


続けて浮遊感を感じたが、面倒くさくなって目を開けずにいたら、今度は軽い振動が伝わってきた。

・・・移動している?



さすがに疑問に思ってうっすら眼を開けると、またオレンジ色の光が目を刺激して、

私は再度目を閉じた。もういいや、このままで。面倒くさいし。



「どこ、いくんですか・・・」


眠気に支配されかかった頭で必死で考えて問いかけた。

・・・けど、ああやばい、また寝ちゃいそう・・・この振動、気持ちいいな・・・




「―――」


ソロモンが何か喋っていたのはわかったけど、聞き取れなかった。

こっちから質問したのに悪いとは思ったけど、ごめん、睡魔には、勝てない・・・






















「・・・・・・・・・(寒い)」



肌寒さを感じて、意識が覚醒した。

・・・・今日一日で自分がどれだけ寝たか、もう考えたくない・・・






目を開けてはみたけど、薄暗いので場所の特定には至らなかった。

でも、少し先にぼんやりとした明かりが見える。

何かに遮られて、光源は見えない。

加えて、小さくはあるが、カチャカチャと音がしている。

聞いたことのある音・・・・・キーボード音?

と言うことは誰かがそこにいるのか・・・ソロモン、だろうか?




「・・・・・・・(何してるんだろ)」




とりあえず、起き上がらないことには現状把握は難しいだろう。

もぞもぞと体の向きを変え、ふかふか柔らかい布のようなものが左手に触れた所で、

ぐ、とそれに体重をかけて、起き上がっ・・・・?!?!



ずるっ



・・・・・っい、嫌な予感!

この、独特の感覚は・・・そうまさに、授業中頬杖ついて寝てて机の端から肘が落ちたときの、

あの何とも言えない感覚!・・・ごめん先生、私居眠り常習犯でした!!





どっちかと言うと駄目な意味で覚えのある感覚に全身が強張ったのも一瞬で、

実の所一秒経つか経たない内に、私の身体は硬い地面に打ち付けられた。



「いっ・・・!!!」



勢い余ってゴロンと転がる。落ちたときに肩を強打したので凄く痛い。

でも手を動かそうとしても、今度は何か、布のようなものが身体を覆っているようで、自由に動かせない。

一体何なんだー!!!・・・・と、わたわたしていると。




「・・・・・・・・?」


「へ?」




上の方から聞きなれた声が降ってきた。

急いで上を見上げると、青白い光に照らされたソロモンが、ちょっと驚いた顔で私を見下ろしていた。

因みに彼は何だか大きな椅子に座っていて、私の頭の真横に彼の靴が見えている。

・・・何だか、ちょっとうっかり踏まれそうな、危険な位置だな・・・



「・・・大丈夫ですか?」

「・・・・・身動き、取れなくて困ってます」



この場合の大丈夫、の基準がわからなかったので素直に現状を説明した・・・ら、笑われた。



「ふふ、、ブランケットが巻きついているんですよ。どうやったらそんなになるんです?」

「好きでやったわけじゃないです! あ、あの・・・外していただけませんか?」

「ええ、わかりました。ちょっと失礼しますね」

「はあ。     ・・・・・ぅええ?!」



巻きついていたらしいブランケットを取ってくれるようにお願いしたところ、

ソロモンは身を屈め、外してくれる・・・と思いきや、私を横抱きに抱き上げた。

・・・・・何で?!


「どうしました?」

「い、いえ何も!」


しかもそのまま私を降ろしたのが彼の膝の上、ときた。

どうして元の場所に戻すとかじゃないんだ。なんでいちいちここに乗せるんだ?!

いや、嬉しくないといえば嘘になるけど・・・・ぎゃああああ緊張する!!!




「さっき、凄い音が聞こえましたけど、・・・ソファから落ちたんですか?」

「え。・・・あ、た、多分・・・」



巻きついたブランケットを外しながら問われた言葉に、歯切れ悪く返す。

何だかこう、改めて文にされると、自分の間抜けさを再確認してしまうというかなんというか。

無性に恥ずかしい・・・寝ぼけてソファから落ちるとか!



「頭とか打ちませんでしたか?痛くありませんでした?」

「・・・っだ、大丈夫です!ちょ、ちょっと肩打っただけで!」

「肩を?大丈夫ですか?まだ痛みます?」

「いえ!ちょっとだけなんで、本当に大丈夫です!」



心配そうな声で問うソロモンはすまなさそうな顔をしているけど、

こっちは醜態を晒した失態にあんまり触れて欲しくなかったから、必死で否定した。

心配してくれるのは嬉しいけど、もうこの話題はいいから!これ以上恥ずかしくなりたくない!



「そうですか?」

「そうですそうです! あ、えと、そっ、ソロモンは・・・パソコンで、何してたんですか?」


話の流れを変えて誤魔化そうと、逆に質問する手段に出たけど・・・いかにもわざとっぽくなってしまった。

ああ、自分の会話技術の無さをひしひしと感じるよ・・・

こんな調子じゃ、いつかぽろっと何か喋っちゃいそうだ。

今まででさえ、言わなくてもいい本音を言ったせいで自己嫌悪しっぱなしだって言うのに。



「これですか?・・・ちょっと調べ物をしていたんですよ。見ますか?」

「へ?あ、はい」


問われるまま、特に何も考えずに返事してしまったが、どうやら調べ物を見せてくれるらしい。

暗い部屋でパソコンだけつけて作業しているから、てっきり秘密の仕事か何かだと思っていたのだが、

普通の調べ物だったようだ。


ソロモンは椅子を回転させると、私の体の向きを変え、画面を見やすいようにしてくれた・・・のはいいが、

座る場所が彼の膝の上。・・・うん、もう突っ込まないぞ。突っ込んだって何も進まないしね!




妙に緊張しながらパソコン画面を覗き込むと、何処かの公園の紹介のようだった。

大きな石橋の架かる川辺には美しい芝生が広がり、小さくてよくわからないが、噴水の様な物もある。

何故か懐かしい眺めだから、有名な場所なのかもしれない。

・・・しかし、彼は何故、こんな場所を調べていたのだろうか?




「明日、ここに行こうと思うんです」

「へー・・・なんなんですか、ここ?公園か何かですか?」

「そうですね。その様なものです。・・・動物園、と言われていますが」

「ああ!どうりで、」

「え?」



どうりで噴水の形に見覚えがあると思ったら。・・・と、つい言いそうになった。

あ、あああ危なかった・・・!

いやしかし、もう既に「どうりで」と口に出してしまっている。

これは・・・まずいんじゃないか?



、どうりで、とは・・・」

「あっ・・あの、いや、えっとっ・・・」



やばい、言い訳の言葉も思いつかない。

「どうりで」・・・何と答えるって言うんだ?

『どうりで動物園みたいだなと思ってたんです』?・・・駄目だ、無理やりすぎる。

『動物園』は誰からどう見ても、一般の「動物園」とは似ても似つかない。

それに、自分で「公園ですか?」と尋ねておいてそれは無いだろう。


・・・・あああミスった!!!



「ここを知っているのですか?」

「い、いえそういう訳じゃ・・・・・」



どどどどうしよう!?ソロモンが疑念たっぷりにこちらを見ている、気がする!

でもここで正直に知っていましたという訳にはいかない。それだけは阻止しなければ。

都合のいい言い訳・・・言い訳・・・

最初にソロモンに会った時の不自然な物言いは記憶喪失、でなんとか済ませたけど・・・

・・・今回も記憶喪失でいくか?・・いやいやそんな無茶な。

でも自分の意思でないことを理由にすればあるいは・・・!




「いっ・・言わなくちゃならない気がして、つい言葉に出たんです!」

「・・・言わなければ、ならない?」

「・・・・・その、うまく言えないんですけど、この公園の写真を見たとき、なんだか懐かしい気がして。

 でも私はここに行った事とか無いので、気のせいだと思ったんです。

 そうしたら、『動物園』って聞いた瞬間に、それがここにしっくり来る気がして、

 ・・・気が付いたら、・・・」




題して「神の啓示☆作戦」。

口走ったのが私の意志ではないことを強調すれば、彼もこれ以上追及できないだろう。

私は嘘は言っていないし(本当に途中まで気付かなかったし)、

発言した本人も何故自分がそんなことを言ったのかわからないと言っている訳だから、十分被害者面できる。

責任転嫁バンザイ!・・・という作戦、なのだが。



「そう、ですか・・・それはまた、不思議ですね・・・」

「です、よ、ね・・・」


これは一応、成功・・・したということでいいんだろうか?

ソロモンはといえば、考え込む様に何かぶつぶつと呟いている。


「・・・まさか・・・いや、ありえない。しかし・・・」


・・・なんだか前にも「まさか」とか「ありえない」とか言われたような。

あれはたしか、変なテストを受けた時だったよなー。

そういえばあの時、記号とか古代文字とかが読めた気がしたけど、あれは一体なんだったんだろう。

私の答えを見たソロモンの驚きようも普通じゃなかったし。

思えばそっちの方がよっぽど『神の啓示』っぽい。・・・お告げにしちゃふざけてたけど。

「ナイル川五丁目」とか、意味不明すぎる。







-- + ----------------------------------



Back Next


Top