白いダリアと蒼い薔薇 蜜 14
「・・・・・」
「・・・・あ!―――、―――、サンクフレシュもスポンサーに加えてあるわよ」
「またですか?構いませんが、次からは先に一言くださいね。――――――、・・・」
「――、・・・・・――、――――?」
「戦争に―――――。」
「・・・・・・・?」
ふと気がつくと、私の身体は硬い床に横たわっていた。
とはいっても転がされている訳ではなく、背中と腰には今だ『彼女』の腕が回されている。
しかし、先程のような息苦しさは無い。本当に回されてるだけ、といった感じだ。
ディーヴァ・・・・・寝てるの・・・だ、ろう・・か?
「・・・っ」
ぐいぐい。
そろりと両手を彼女の肩に乗せ、軽く押してみたが・・・・・動かない。
「んぅ・・・・」
「・・・!!!」
不意に彼女が身じろぎしたので固まる。
起きてしまうのかと内心ドッキドキだったが、幸いにも何も起こらなかったのでホッとする。
これ以上余計なことをすると起きてしまいそうで怖かったので、またそろりと両手を彼女の肩から離し・・・
・・・行き場の無いそれらをあたふたと彷徨わせた所で、
彼女の頭の上に一枚の葉っぱが乗っているのに気付いた。・・・取ってあげようかな。
すすす、とゆっくり慎重に葉っぱに手を伸ばした・・・ら。
カサカサ・・・ッ
「っ!?」
あと1センチ、という所でいきなり葉っぱが音を立てて萎びていった。
な・・・何事?!! は、葉っぱが枯れた?
私が何かしただろうか・・・焦っていてふと、そういうシーンがあった様な気がすると思い出した。
たしかディーヴァの頭の上に乗った葉っぱがひとりでに干からびる、といった感じだったはずだ。
ああなんだ良かった、心配しなくて良かったんだと安心したけど・・・
まさか私もディーヴァに、この葉っぱみたいにされたりしないよね?!ね?!!
ミイラにはなりたくない!!
「・・・あら、起きてたの?」
「ぅえ・・・?!」
葉っぱに気を取られすぎていて、私とディーヴァの上にスッとできた影にも、
同時に掛けられた声にも反応が遅れてしまった。・・・とてつもなく、嫌な予感がする。
ディーヴァに向かい合う形で抱きしめられた無理な体勢のまま、ぐぎぎと首をひねると・・・・いた。
・・・・・・姉さん(違)が!
「・・・ふうん。貴女がね?」
「・・・・っは、はい・・・」
思わずどもってしまう。
なんと言っても、相手は私が会った久々の登場人物で、シュヴァリエで、おまけにオカマ口調なのである。
アニメで初めて彼が出てきた時、素で「姉さん」なんだと誤解したことは懐かしい。
だってソロモンはアンシェルのことを「兄さん」と呼ぶから、同じ要領だと思ったのだ。私は悪くない。
そんなこんなで私が頭の中でひっそり言い訳している間にも彼の視線は私の爪先から頭の天辺までを辿り、
少々居心地が悪くなってきた辺りで、彼は独り言のように呟いた。
「・・・・・・・・どこが良かったのかしら」
・・・・・もしかして彼は、今さっき私が彼に思い描いていたことを読んだのではないかと思ってしまった。
その仕返しだろうか。
確かに私は特別綺麗な容姿でもないけれど、ここまであからさまに言わなくても。
いや、そもそも偉そうに意見する権限すら持ち合わせていないし、
それ以前に私の命はディーヴァ次第で、いつ血を吸い尽くされても不思議じゃない訳で、
こんな存在は彼の言う通り、場違いなものなのだろう。
それはわかる。わかるけど、だからといってそんなことを言われても、
対処の仕様が無い事にはどうしようもない。
私だって好きでこんなポジションにいるんじゃないんだから、彼だってそれを察してくれてもいい筈だ。
後ろ向きに長々と心の中で愚痴っていたら、彼は特に何も言わずにその場から去っていった様で、
いつの間にか二人きりの元の状態に戻っていた。
締め付けがどんどんきつくなっている様な気がしたが気にしないことにした。
きっと死なない程度で手加減して・・・くれるはず。
向こうの方でソロモンとネイサンと多分ジェイムズであろう軍服の男性が何やら準備しているようだった。
椅子を並べ、クーラーボックスが運ばれてくる。
何をしているんだろう。これから何が起こるんだっけ。
何故かぼんやりしてきた思考で頭を働かせるが、うまくいかない。
「・・・・・」
ふと目を開けると、ディーヴァの安らかな寝顔が視界に映った。
・・・・・目を開ける? もしかして私、寝てたのか。
辺りを見渡そうとして、誰かが傍に座り込んでいるのが見えた。
女性だ。髪を短く切り揃えて、伸ばされた手はディーヴァの頭を撫でていて・・・
「っ・・・・!」
顔を見た瞬間、慌てて出掛かった言葉を制止させた。
リーザさんだ。
でも本物の彼女は赤い盾所属で、ここにいるはずの無い人間。
ではこの人は誰か。
そんなのわかり切っている。・・・・・アンシェルだ。
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