白いダリアと蒼い薔薇 蜜 11









「ここがサンクフレシュ・ファルマシー本社です」



(・・・・・はあ・・・)


まあなんだかんだしつつも結局、サンクフレシュの本社に着いてしまった訳で。

ディーヴァが寝てるといいなあ〜っていう私の切実な思いは果たして叶うんだろうか・・・

いや、万が一寝てたとしてもどうせそのうち起きるし一緒のことか。





「エレベーターで行きます?それともエスカレーターがいいですか?」

「えー・・・じゃあエスカレーターで」


あれ、エスカレーターとエレベーターってどっちがどっちだったっけ。

まあいいや、適当に言っとけば。




ソロモンの行動を伺うと「わかりました」と微笑み、先導して歩き出したので、

その後ろをてこてこと付いていく。

進む先には透明なチューブのような形状をした覆いの中を動く階段。

ああ、こっちか。

そう心の中で一人納得して、彼の乗った段に私も並んだ。








「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」



沈黙が気まずくなってきたので、周りを眺めてみる。

忙しなく行き交う人々。

会社なんだから全員スーツかと思いきや、私服っぽい人も多い。

なんともなしに人々を眺めていて、不意に投げかけられた声に反応が遅れてしまった。



「こういう場所、初めてですか?」

「・・・・っあ、え?」

「熱心に見つめていたようなので。珍しい物でもありました?」



珍しいも何も、別世界から来たにとって、自分の周りは珍しい物ばっかりだ。

だから、ソロモンの言う『珍しい』と自分の『珍しい』の意味は全く違う。のだと思う。

この会社の特徴的なエスカレーターだって、実は自分はもう知っている・・見たことがある物なのだ。

ただ、それが自分の目の前に実際に『在る』ということが、とんでもなく『珍しい』だけ。

今、横に立って微笑んでいるソロモンだって、私からしたら本来『在りえない』存在なのである。



「いえ、特に。ただ、私服の人が多いなあ、と。

 普通、会社って言えば皆スーツなんだろうな、と思ってました」

「ああ、多分お客様ですね。多いんですよ〜うちは。いろいろな分野に手を出していますし」

「・・・・・食品とか、ですか?」

「ええ。健康食品が主ですけれど。・・・よく、分かりましたね」

「え・・・あ、いや、て、適当に、言っただけなんです、けど」



心なしか、最後の一言だけ雰囲気が変わったような気がしたのだが・・・

気にしないことにしよう。何かまずいことを言ったわけでもないだろうし。





何故か余計に気まずくなった気がしないでもないが、その後は特に会話が進むことも無く、

ひたすらソロモンについて行くので精一杯だった。




















「・・・・・(なんなんだろ、ここ)」


てくてくとソロモンについて行くこと、数分は経っただろうか。

今私達は、静かな廊下を歩いていた。

今までのいかにも会社っぽい雰囲気ではなく、何処かのお屋敷やホテルのような内装で、

壁には壁紙、床はカーペットといった具合だ。

なんと言うか、こんなところを歩いている自分が酷く場違いのように思えてくる。




(ソロモンには凄く、似合ってるんだけどなー・・・)

いやいや、そんなことより問題はここがどこか、ということであってだな・・・





とすっ


「ぅえ??」



頭が何かにぽすっと軽く突撃した。

それが何か確認する間もなく、上からくすくす笑う声が降ってくる。




、ちゃんと前を向いて歩かないと危ないですよ。

 ほら、着きました」

「へ?」




見ると目の前には観音開きの、重たそうな木製の扉。

・・・ここ、本当に会社の中ですか。



「ここが僕の執務室です。そして・・・」


ぎい、と片方の扉を押して開けたソロモンは、少し中に入ると

こちらに向かっておいで、というように手を差し出して微笑んだ。




「・・・・・っ」

(うぁああああ格好良すぎるううう!!!)




それが凄く様になっていたもんだから、

不意打ちで食らった私は今すぐ叫び出したいのを押さえるのに必死で、早足で室内へと入った。

だー!もう、ソロモンったら似合いすぎ!!





「はうあああ・・・!」

?どうしました?」

「うえ、ええ? ・・・い、いやなにも!何も無いです!」



顔の前でぶんぶんと手を振って否定を示す。

なんと、知らない間に心の叫びが外に出てしまっていたようだ。危ない危ない。




「・・・そしてこちら、隣の部屋が仮眠室です」



アニメの中で何度か見たとおりの執務室を眺めていたら、右側の壁のドアが開けられた。

なので私も付いて行って覗いてみた・・・のだが。


(・・・か、仮眠室ってレベルじゃない)


むしろホテルの一室と言った方がしっくりする様な素晴らしいお部屋が広がってました。


「とはいっても、実際に使うことは殆ど無いんですけどね」

「へ、へー・・・(お金の無駄遣いだ・・・!)」


突っ込みは声に出さずに仕舞っておいた。

きっとソロモンからすればこれぐらい、なんてこと無いんだろうなあ・・・

ドレスやレストランといい、お金持ちの金銭感覚はよく分からない。








「・・・さて。 もう大体紹介しましたね。後は・・・庭園か」

「・・・・・・・・・庭園、ですか?」

「はい。最上階に在るんです。美しい場所ですよ・・・では、付いて来て下さい」



独り言のように呟かれた単語に反応して思わず聞き返してしまった。

あああ、やっぱり行くんですか、例の場所に!!

ソロモンの執務室とか紹介するから、もしかして回避かなーとか思ってたんですけど!

そうも行きませんかそうですか・・・




心の中で盛大に溜め息を付きながら、部屋を出て、廊下の突き当たりのエレベーターに乗り込む。

本音としては、いろいろ理由でも何でもでっち上げて逃げ出したかったのだけど、

そんな急にとっておきの解決策なんて考えられるはずも無く。

無常にも最上階に到着した時点で、とりあえず諦めた。


何かもう・・・なるようになれ!後は野となれ山となれ!みたいなノリで。

ホラあれだ、前にカールに襲われた時だってちゃんと助けてくれたじゃないか。

だからきっと今回だって私が危なくなったら助けてくれる・・・・・はず!


・・・・・多分。









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