白いダリアと蒼い薔薇 蜜 10
「そうと決まれば・・・はい、お願いします」
いつの間にあったのか、足元の紙袋から取り出した包みを受け取る。
広げると。
「・・・・・うっわ」
ひらりひらひら、ひらりらら。
そんな効果音が聞こえてきそうな服を頂きました。
この服、半分はフリルで出来てるんじゃないか?と疑ってしまいそうになりました。
と、いうか私は何をお願いされたんだろう?
「ええと、お願いって、何をすればいいんでしょう?」
「ああそれはですね、写真撮影です」
「写真、撮影?」
「僕とが親子に見えるような写真があったほうが何かと便利かなと思いまして」
「はあ・・・」
じゃあ別にこんな服じゃなくても。
そう思ったがコメントするのは我慢した。
わざわざ用意してくれたんだから、着ないと言うのもなんだか服が可哀想かも・・・と思ったから。
しかし用意周到すぎてなんだか妙な気分である。
ソロモンの言うままに事が進んでいるのは気のせいではないと思うし。
初めからコレを着させるところまで全部彼の計画通りなのかと思うと・・やっぱり彼がちょっと怖い。
ついでに言うと、彼が先程から終始笑顔なのもちょっと、いやかなり怖い。
でも、断ったら何が起こるか分かんないし、我が身可愛さで断りきれないんだよなー・・・
・・・で、さっきの看護婦らしき人に手伝ってもらって(申し訳ない・・)服を着たわけですが。
「・・・や、流石にこれは無いっしょ」
やっぱりすごくひらひらしてました。
だけど無駄に布を使っている感じじゃなくて、なんと言うか・・お嬢様!!ってイメージ。
基本赤茶色系のチェック地だし、丸襟のシャツも普通だったし。
助かったと感じたのは、首に巻きつけたフリル付きのチョーカーだろうか。
正直見た瞬間あまりのボリュームにコレは無いだろと引いたのだが、偶然にも首もとのガーゼを隠してくれた。
痛々しい格好で写真に写る訳にはいかないから良かった。
だけど、ガチャリと音をさせてドアが開いて、ソロモンが
「わ、凄く似合ってますよ、!」
と褒めたのは凄く恥ずかしかった。私お嬢様でもなんでもないから!
・・・まあ、いくら否定してもそんなのを彼が気にするわけも無くて。
あれよあれよと言う間にそこらへんの椅子に座らされ、
その後ろにソロモンが立つ、という構図で何枚か写真を撮られて(一人きりのも何枚か)。
その間
写真は写真でも自分が写っているのってなんか微妙、私だけの写真は言わずもがな、
ああでもソロモンの写真だったら欲しいかも、いや寧ろ欲しい、ください、てか誰かくれ。
そういやベトナムの館で見たあの軍服ソロモンの写真は何処に行ったんだろう。
一枚ぐらい焼き回ししてくれないものだろうか、あ、ネガが無いか!
・・・とかなんとか考えながら乗り切ったのでもしかすると変なオーラまで写っちゃってるかも知れない。
「よし、では行きますか」
「へ?何処にですか?」
「サンクフレシュ・ファルマシー本社・・・の新しい家です」
あー・・・そうだった。これからやばいんだった。ディーヴァとかディーヴァとかディーヴァとかが。
本当にどうしよう・・・
「ってちょ、もしかしてこの格好のままですか?!」
「いえいえまさか。実はその服、セパレート式になってまして」
「え、あ、ほんとだ。 おーすごい、短くなった」
これぞゴールドスミス・クオリティ!みたいな。(謎)
重たかった長いスカートを取り外しシンプルになった服に、は妙に感心したのだった。
* * *
「うわぁ・・・あ!そ、ソロモン!あれって、あれって!!」
「凱旋門です。これは有名ですよね」
いつの間にか港についていた船から下りて待っていた車(運転手付き!)に乗り込んだのはまだ朝方。
疲れが出たのかそれからだいぶ寝てしまっていたみたいで、起きると陽が随分高いところにあった。
ここで完璧に寝こけなくて本当によかった。寝てる間に何が起こるかわかんないし、
そしたらこんな風に、車で、ではあるけどフランス観光できなかった訳だし。
・・・とかいいながら、○×美術館とか△□博物館とかの説明は上の空だったけどね!
名前も知らないし・・・ごめん、ソロモン。
そういえば、意外とソロモンのことを呼び捨てにするのは楽にできた。
思えば口に出す時に遠慮してただけで、脳内では呼び捨てにしてたわけだし。
・・・・『お父様』は無理。
「いいなー凱旋門。近くで見たかったなー・・・」
「では、あの辺りで昼食にしましょうか。丁度凱旋門を眺めながら食事できるレストランがありますので」
「え、いいん・・ですか?」
「ええ。エッフェル塔の辺りのレストランにしようかと思っていたのですが、
こちらの方が気に入った様ですので」
「あ、ありがとう、ございます・・・?」
な、なんだかお昼ご飯が変な決め方された気がする。
私優先にしてくれてるんだろうけど、微妙な心持ちだ・・・
お昼ご飯なんてそこらの飲食店でいいのに、レストランて!
あーもー昼間っから格式ばったところで食事したくないのになー。
どうしてチョイスが必ずレストランなんだソロモン!
・・・と、心の中で若干うんざりしてた訳だけど、
実際にレストランに着いてみると、思ったより状況は良かった。
ソロモンが予約せずに行ったお陰で室内は満席だったのだ。
空いているのは屋外、店の前のテラス席のみ。
これが本当に感じのいい席でびっくりした。
やっぱりこんな天気のいい日は室内にこもって食事するより、
通りを行き交う人たちを眺めながら食事したい!
そう思ったから、本っ当ーに申し訳なさそうなソロモンが私に謝った時、私はつい力説してしまった。
「すみません、。今日はいつもより沢山の客が来たようで・・・テラス席でも許して下さいますか?」
「許すとか!まさか、とんでもない!むしろ外で食べるなんて嬉しすぎ・・・」
あ、やっべ本音漏れた。
慌てて口をつぐんだが、時既に遅し。ソロモンが驚いた顔でこちらを見るのがわかる。
あああ、何故にこう、本音の飛び出すタイミングが悪いかな、私!
こっちはお世話になってる立場なのに。せっかくソロモンがいろいろ考えてくれてるのに。
「あああすみませんごめんなさい! た、ただ、私、堅っ苦しいのがちょっと苦手なんです!だから、」
「あ、いえ・・・・別に怒ってる訳ではなくて。少し驚いただけです。
そう・・・ですよね。僕の方こそ、のことをよく考えずに決めてしまって。
とりあえず今は食事を楽しみましょう? 軽いもので良いんでしたらサンドイッチとか、どうでしょう」
「は、はい、それでお願いします!」
なんとか丸く収まった・・・のかどうかは分からなかったけど、
結果的に美味しいサンドイッチが食べられたので良しとしよう。
ピピピピピ・・・
「?」
「あ、ちょっと失礼しますね」
食後の紅茶とケーキを味わっていると、不意に電子音が鳴り出した。
出所はソロモンの携帯だったようで、席を立つと通話ボタンを押し、少し離れた場所で話し始める。
ちょっと気になったので通りを行き交う人々を眺めて紅茶を飲みながらそっと耳を傾けてみた。
流石に相手方の声は聞こえなかったけど、何かの報告らしく、事務的な返事をしているようだった。
「・・・・届きましたか。それはよかった。・・・あー・・・そうですね・・・
一応、寝ているのなら安全だと思うのですが・・僕がやりましょうか?・・そうですか。
ではくれぐれも気をつけて。何かあればすぐに連絡してください。僕もすぐに向かいます」
ん? あれ? ・・・ちょっと待った。 ・・・・・何の報告?!
寝てるとか聞こえた気がする・・・
もしかしてディーヴァ?ディーヴァ関連の話だったりする? ていうかディーヴァ、寝てるんだ・・・
なら危険は無いかな。
・・・ってああ、駄目だ、紅茶飲んでるフリしなきゃ。
会話聞いてるのばれたら怪しむだろうし。
慌てて、口元まで持っていった紅茶のカップに口をつけた。
無関係を装うって難しい。どうしても彼の会話に意識が持っていかれそうになる。
仕方がないから街を行き交う人々や道路の向こう側の飲食店を必死で眺めることにした。
・・・私全然怪しくなんて無いですよー通行人とか街並みとかを眺めてるだけですよー。
あー、綺麗な人が多いなーいいなーうらやましいなー。
お、向こう側のカフェも繁盛してるみたい。ていうか人通りホント多いな。
と、その時、道路の向こうに奇妙な人達がいるのが目に留まった。
上から下まで真っ黒な三人組。ぶっちゃけ、色とりどりの街中で浮きすぎである。
・・・ってちょ、このあったかい日に黒のコートは無いだろ、フードまで被って!
なんなんだあの人たち。不気味だなあ。てか暑すぎだろ!あれで武器とか持ってたらまんまシフじゃん。
・・・・・シフ? ・・・え、え・・・? もしや、本物・・・
「・・・っ!?」
ヤバい!紅茶が変なところに入った!!
「けほっ、けほ、う゛・・・っ」
「、大丈夫ですか?!」
「ぅあ、はい、なんとか・・・」
あああ、今度は街並みとシフ(仮)に気を取られてソロモンの方の話聞いてなかった!
いつの間にか会話終わってたみたいだし!
シフ(仮)は・・・あ、いなくなってる・・・
ちらりと先程の通りに目を走らせてみても、もう三人を見つけることはできなかった。
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下の方に前半に主人公が着ていた服のイメージがあります。
あくまで服がメインですので、バランスとかが超酷いのは無視の方向で!