白いダリアと蒼い薔薇 蜜 9
「・・・それで、三つ目のお知らせなんですが」
ぱっ
「!!」
やっと手、離してくれた!あぁ緊張した!
ソロモンはベッドサイドのテーブルの上から何かの冊子(雑誌に見える)を手に取って、パラパラとページを捲った。
目的のページが見つかるとそこで手を止め、そのままその雑誌を私に差し出す。
「まあ、まずはこの記事を見て下さい」
「?はい」
こんな雑誌の記事がどうしたって言うんだろう?
何かのスクープらしい。写真がでかでかと・・・・・
でかでか、と・・・・・
あれ?え、これもしかして・・・私!?
し、しししかもこの写真アレじゃん!
ベトナムで襲われた時の・・・ヤバい格好(下着にシャツ一枚)な上、
ソロモンに、その、お姫様抱っこされてる・・・っていう・・・
あああ思い出すだけで恥ずかしー!!!
うっわぁー・・・アップまで載ってやがるー・・・顔までしっかりモロバレだよ!
い、何時撮られたんだこんな写真!?
ぎゃああぁあ恥ずかし過ぎるうぅ!
生き恥だよ!!勘弁してくれぇええ・・・!
もう既に頭が半分位フリーズしかかってるというかいっそこのままフリーズしたい所だけど、
ソロモンが「読め」と言ったんだから読まなきゃならないんだろうな・・・
大体、撮られた場所が場所だ。何か重要な事が書いてあるんだろう。翼手の目撃情報とか、Dー67についてとか。
・・・と、思ったのだが。
(何か・・・方向性が、違うような)
記事の内容はこんな感じだった。
・・・――『サンクフレシュ・ファルマシーのCEOにまさかの愛人?!』
―――・・・近年、驚きの急成長を遂げているサンクフレシュ・ファルマシーのCEO、ソロモン・ゴールドスミス氏に愛人がいるという情報を我々は入手した。
彼は今まで特定の女性をつくらない事で有名だっただけに、今回のこの新事実は社交界に大きな影響を与えるだろう。
写真の女性の詳細はまだ明らかになってはいないが、服装から察するに、少なくとも彼と一夜を共に
バタンッッッ!!!
「・・・・・」
わ、私は何も見なかった。
うん、見てない見てない。
あ、あはははは・・・いやー、こういう記事書く人の妄想力って凄いよね!
誤解するにも程度ってものがあると思うんだ!
確かに結構破廉恥な格好してたのは認める(不可抗力だけど)。
でもだからって、まさか、あ、愛人、とか、い、いいい・・・一夜、と、か。
やばい。これ、もう雑誌として発売してるんだよね?ということはこの記事、一体何人に読まれ・・・
・・・か、考えちゃ駄目だ。考えたら負けな気がする。
思いっきり雑誌を閉じた体勢のまま硬直していただったが、
不意に雑誌が引き抜かれたので視線を向けると、ソロモンが雑誌を元の場所に戻したところだった。
「という訳で。」
にっこり。・・・なんだか笑みが黒いですソロモンさん。
「この写真の出所はもう突き止めてありますし、圧力もかけたので、もうこんなふざけた記事が書かれることはないでしょう。
重要なのは、不特定多数の一般人に貴女の存在がこのような形で知られてしまったことです。
貴女だってこんな書き方をされて黙ってはいられないと思いますし、僕も立場上、こういう話題で騒がれると信用度に関わってくるので大変都合が悪いんです」
「じゃあ・・・どうするんですか?この雑誌、もう売られちゃってるんですよね?」
さっき観光したいとか言ったけど、こんな状況になってるなら止めた方がいいかもなー…
「ええ。残念ながら今売られている分には何も出来ません。ですから出版社の方々にお願いして、来週号に訂正文を入れてもらうことにしました」
「訂正文・・・ですか?」
「はい。『写真の女性は私の愛人ではなく、娘』だと」
「・・・・・・・・・・・へ?」
「あ、正確には養子です。身よりのない貴女を僕が引き取ったという設定で」
爆弾発言。ソロモンの言葉には、まさにその言葉がぴったりで・・・私は固まった。
え、何?今なんて言ったんだこの人!?
私が、ソロモン、の・・・・・・養・・子?
「え、ええっ?ちょっ、な、いきなりですか!?」
「いきなり、と言うほどではないですよ?
いつまでも戸籍が無いままなのは辛いでしょう?せめて形式上でだけでも、と思って、ベトナムを出る前の晩には手続きを済ませていたんです。
ああしかし、続柄には少し悩みましたね。遠い親戚、にすると辻褄合わせが面倒ですし、何よりさんは日本人ですから有り得ません。妻、と言うには年が離れ過ぎていますし・・・」
・・・多少無理をしてでも、遠い親戚の方が確実に気が楽だったよ・・・
年齢差で妻設定回避してたのも何だか微妙な気持ちだし。いやまあ助かったけど。
しかし何故に娘チョイス?!せめて知り合い(日本人)の娘とかに出来なかったんだろうか?
「・・・その点、養子なら血の繋がりも外聞も気にしなくて済みますから、楽だったんです。
ちゃんと貴女が保護されていた施設もでっち上げておきましたから、これで安心ですよ」
いやいやいや、安心どころか更に危険な展開になっていってるよ!?
一般人にはそれでいいかもしれないけど、ソロモンは赤い盾に正体バレかかってるでしょ?
そんな人と急に関係者なんかになったら、私、疑われるに決まってるよ!
ていうかぶっちゃけもう顔とか見られてるし、既に疑われてるだろうなー・・・
いくら施設なんてでっち上げても、赤い盾にはお見通しだろうし。
いや待て、どうせ疑われるにしても、愛人として疑われるよりは、せめて娘ポジションとしての方が多少はマシなのかもしれない。
うん、そうだ、そう思いこもう。じゃないとやってられない。
うんうん、と頷いていると、不意にくすくす笑う声がした。
・・・言わずもがな、ソロモンである。
「・・・何で笑うんですか」
「いえ、さんがあまりにも悩んでいる様子なのが可笑しくて。
そういえば、さん付けというのはどこか他人行儀ですね。せっかく親子になったことですし、これからは、と呼ばせてもらいましょう」
「ぅええ?!」
いきなり呼び捨て?!こ、心の準備が!
ていうか展開速い展開速い!!
「も、僕のことはお父様、とか呼んでくれると嬉しいです」
「い、いやいやいやいや!むむむ無理ですっ・・・そ、そんなこと出来ませんって!!」
「そんな事ないですよ。慣れます慣れます」
「慣れませんよ!」
・・・その後も押し問答は続き、最終的には、公式の場ではお父様、通常はソロモンと呼ぶと言うことで何とか決着させられたのだった。
アレはほぼ無理やりに近かった。何でそんな事まで決められなきゃならないんだ・・・ううっ。
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