白いダリアと蒼い薔薇 蜜 6










「・・・・・・・」

ぱちくり。




(やばい、このパターン、定着してきたかも・・・)




目が覚めて身体を起こすと、そこはベッドの中でした。清々しい朝です。




・・・・・・生きてた!生きてたよ私!? 奇跡!



いやまてあれは夢だったのか?!現実だったのか?!!



「あら!」


と、いきなり女性の声が聞こえ、はビクついた。


恐る恐る視線を向けると、看護婦らしき服装をした女性が急いで部屋を出て行くところだった。


そして窓のカーテンは全て開かれており、そこから太陽がさんさんと降り注いでいたが、

注目すべきはその風景にあった。




・・・。見渡す限りの。




「・・・えー・・・」



マジでか。もしかして、ここ船か何かの中だったんだろうか・・・

あーじゃあ、いつの間にか外にいた時に聞こえてきたのは海の音だったのかな・・・

いやでもそれじゃホントにあれが現実だったって認めちゃうことになるよね。

ということは襲ってきたのはやっぱり、




バタン!!

「ひぎゃっ?!」


びっ、びっくりした! ・・・・あれ?誰?






入ってきたのは黒人の軍人さんだった。

つかつかと私のところまで歩み寄ってくると、上から見下ろす感じで、目の前に立ちはだかった。

そしてなんと言うか・・憤怒の形相で、睨まれた。



「・・・・・・・・」

「・・・・・・・;」



・・・え、私、何かした?! こここ怖!


え、わ、く、唇とか捲れ上がってる、気がするんですけど・・・!す、凄く怒ってるよね!?


あ、あれ?でも、そう言えばソロモンが軍の方にお世話になるって言ってたからその人だったり?


それにしてもこの人、ジェイムズに激似・・・・あれ?


・・・もしかして、・・・・・本人?






ガチャッ


「ジェイムズ!全く、彼女が目覚めたのなら一言知らせてくれてもいいでしよう?」



そろそろ気迫で殺されるんじゃ、と思い始めた頃になった所でドアが開き、やっとソロモンが現れた。

やっぱりジェイムズだったか・・・怖い!怖すぎるんだよこの人!

早くこっちに来てソロモン!精神的にピンチなんだよ今!!



「はっ。貴様がそれ程こいつに入れ込んでいるとは知らなかったのでな」


うわぉ嘲笑しましたよこの人!怖!

カールもソロモンにこんな態度だったけど、カールをツンデレとするならジェイムズはツンツンだなこりゃ。あれ?ツンドラだっけ?



「いえいえ。それは企業秘密ですよ。ね?さん」



そこで話を振られても。あ、ジェイムズが出てった。早っ。


・・・まあ、企業秘密ってのも案外冗談じゃないよね。
翼手の女王とかシュヴァリエとかデルタ67とか、全部知ってるし。

・・・あれ?ということは私自身が企業秘密?





「・・さん、さーん?」

「はっ、はい!?」


慌てて返事を返す。何だろう、前にもこんなことがあった気がする・・・



「ああ良かった。時々いるんですよねー、精神のダメージを負って、心が戻ってこない人とか」


・・・よくもまあ、さらっと言うよな怖いことを。

・・・ん?精神のダメージ?



「精、神?」

「ええ。・・・あれ?覚えていませんか、ヘリに乗った後のこと」


「後、って・・・もしかして」




前、であり得るのはベトナムのあの屋敷から脱出した時のことだろう。

しかし、彼が指しているのはヘリに乗った後。

すなわち、私の記憶が間違ってないなら、やっぱりアレは夢じゃなく・・・




「・・・っ」


思わず右手で首の右側・・・問題の箇所に触れた。

・・・ガーゼが当てられていた。



と、いうことは。




そして、私が辿り着いた結論を裏付けるかのように、ソロモンは哀しそうな目をして、深く溜息をついた。


「・・・はぁー。やっぱり覚えてましたか。貴女も災難な人ですねぇ・・・」


「え、災難ってどういう・・・」


意味ですか、と問おうと顔を上げるとソロモンはいつの間にかベッドの傍らにいて、

ゆっくりとこちらへ手を伸ばし・・・




・・ぽすっ「え?」

わしゃわしゃわしゃ「へ?!」





「・・・・・はぁー・・・」


また溜め息ですかい!?

かなり乱暴に頭撫でときながら結局何も言わないし・・・謎だ。




私の頭の中の突っ込みもなんのその(彼が知る筈は無いのだが)、

ソロモンは今度はどこからか木製の椅子を持ってきて先程の場所に置いて腰掛け、

次にはぶつぶつと呟きだした。


「全く・・・どうしてこう、物事ってものはうまく運べないんでしょうね・・・

ロックは開いてる、ディーヴァは目覚める、の部屋も確かにロックした筈なのに・・・

・・・誰かが開けた?・・しかし何のために?やはり能力を危険視したのか・・・だがコンテナの中を知るはずは・・・」






も・・・

もしもーし?


ソロモンさーん?


・・・・駄目だ。完全に自分の世界に入っちゃってるよアレ。

しかも思いっきりディーヴァとか聞こえた気がするし。


ということは、やっぱり私を襲ったのはディーヴァだったのか・・・納得。

確かに、ロックをかける程大事なものだよね。

暗証番号も女王関連だし・・・どうして気づかなかったんだろ私。

アニメでも船で運ばれてたのを知らない訳じゃなかったのに。


・・・あぁ本当に駄目だ。何のための知識だよ!




それにしても、私、ソロモンに会ったら何か言わないといけない事があったような・・・


「・・・あっ」

勝手に行動した事謝るの忘れてた!




「どうしたんですか?」


「あ、あのっ・・・その・・勝手に行動して、すみませんでした・・・」


怒られたりするんだろうか、とドキドキしていると、

彼は一瞬きょとんとした後に、にこっと微笑んだ。


「謝らなくても大丈夫ですよ。僕がついていなかったのが悪かったんですから」

「でっ、でも、凄く迷惑かけたんじゃ・・・」

「いえいえ。さんが生きていてくれただけで充分ですよ。本当に安心しました。

 しかし、どうしてあの場所にいたんですか?誰かに連れてこられたとか?」


「いえ、そんな事はなくて・・・」




取りあえず、


目が覚めて数歩歩いたところから意識がなくて、

気が付いたら知らない場所にいて、

暇つぶしにしたロックを開けてしまい、

中に入ったら襲われた・・・という感じでいきさつを説明した。



「そうですか・・・記憶が無くなる前に何か変わった出来事は?」

「特には。・・・強いて言えば、襲撃があった日の朝に同じ様に目眩があった気がします」


「目眩・・・」


ふむ、とまた考えだしたソロモン。いい加減置いてきぼりなのもこう、居心地悪いんですけど。



・・・・・・・私を襲ったのは、やっぱりどう考えてもディーヴァ、なんだよね。

アレだよね、思いっきし血吸われたよね・・・本当によく生きてるな私。



この状況って、ディーヴァについては聞かないほうがいい、のかな。

いやでも他のところは話したのにそこだけ話さないって凄く不自然だし・・・

聞いたとして、正体不明の生き物が米軍の船に積んでありましたって説明されたりするのかな?

こっちから聞いてみようか・・・でもあまり知りすぎるとどうなっちゃうか分かんないし、

だからと言って聞かないのって、逆に感づいてるって思われるかも・・・


・・・ああもう分かんない!頭こんがらがってきた!

アニメを知らない普通の人だったら・・・やっぱ聞く、かな?






意を決して切り出す。



「あの・・・私は、どうなったんでしょう・・・?襲われてからのこと、覚えてなくて・・・」


『誰に』襲われたか、から焦点をずらしてとりあえず今の私の状態から聞いてみた。

今こうして普通に考えて話せているんだから目立った後遺症とかは無いみたいだけど。


私が声を掛けると、彼はやっとのことで自分の世界から抜け出したようで、こちらを向いた。


「ああ、すみません。貴女は、・・・・・・・酷い出血でした。

 発見が遅れていれば二度と目覚めなかったかもしれません」


「そ、そうだったんですか・・・」


・・・え、何その妙な間は。

言えないほど酷かったのか?!


「貴女を見つけた時、正直手遅れだと思ったんですが・・・

 ここの設備が整っていて、本当に助かりました」


「ここ・・・船か何かの中ですよね?凄いですね、大きな船なんですか?」


「ええ、なかなかの大きさですよ。

 あ、言い忘れてましたけど、船といっても実は米軍の船なんです。あまり一般人が出歩くと面倒なんで、気をつけて下さいね」


「はい。あ、だからさっき、軍人さんがいたんですね。

 ・・・何だか凄く怒ってるみたいでしたけど、私、何かしちゃったんでしょうか?」





あれは怖かった。


前、カールに攻撃されたときも、そりゃもう痛かったし怖かったけど、

今回は敵意は敵意でも、私に何か恨みがあるような感じだったような気がする。


・・・初対面、だよねえ・・・?






「さっきの・・・あ、ジェイムズですね?」


「・・・お知り合いですか?」


「はい。実は彼も兄弟でして、弟にあたります。そのつてで今、お邪魔させてもらってるんです。

 ですが・・・すみません、決してさんが悪い訳ではないんですが、どうも個人的な恨みに近い感情を持っている様なんです」


「うらみ・・・え、それ以前に接点すら無いですよ?」




本心から疑問に思ったので聞いてみる。


だって、今まで会って話をした人すら数える程なのに。

それとも、本来居ないはずの私が居ること自体が何か悪かったのかな・・・





・・・ん?




ふ、と沈黙に気付く。



彼を伺うと、凄く難しい顔をしている・・・あれ?もしかして・・・また自分の世界、だったり?



「・・・あ、の?」

「あ、すみません。いや、接点が・・・あるには、あるんですが・・・」




・・・あるんかい。




「まあ・・・さんは覚えてないでしょうし、覚えていたとしても意味が分からないと思うんで、

 気にせずにいて下さると嬉しいです」


「・・・・・はあ」



困った顔でそうお願いされちゃ、もう黙るしか無いじゃないか。






ていうかこれはもしかして暗に「触れるな」という意味だったのかもしれない。

余計な事を聞きすぎても危ないからなー・・・ああもう難しい!








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