白いダリアと蒼い薔薇 蜜 4
ギッ・・・
両手のひらを扉にひたりとつけて、ゆっくりと力を込める。
やっぱりロックは解除されてしまったようで、重苦しい音と共に少しずつ開いていく。
通れるぐらいの幅になって初めてそこで手を離した。中は暗い。
・・・・・さて。
――――――――――――――中に入るか、・・・否か。
前を見る。
・・・得体の知れない真っ暗闇。
振り返る。
満点の夜空にそびえ立つ鉄の壁。
「・・・・・・」
ひゅうぅ、と冷たい風が吹いた。
・・・とてつもなく、寒い。
「・・・・・入ろ」
うん、やっぱ耐えられない!!
「く・・・・・・・・暗いっ」
当たり前だがここは地下。
文字通り真っ黒な視界に少し戸惑ったが、
寒い風から逃れるにはそれしかないようなので、するりと体を中に滑り込ませる。
そしてゆっくり扉を閉めて・・・
・・・あ、駄目だそんな事したら本当に真っ暗だ、ちょっとは開けとこう。
「・・・。ふー・・・」
さっきと同じように壁にもたれ掛かったけど、もう寒くない。
壁や床は金属だから冷たいけど、まあこの際そんなの気にしてたら何も始まらないよね!(自己暗示)
・・・うぅむ。
まずは現状確認ですかね・・・?
まあ、とりあえず今、私は一人だ。
そんでもって、あんまり宜しくない事に、ここが何処なんだかさっぱりもって分かんない、ときた。
最大の謎としては、
何が、どーして、こうなったのか、記憶が全く無いという・・・すんごく怪しいものが。
どこかの部屋で目が覚めて、歩き出そうとしたら目眩がしたってところまでは覚えてる。
でもそれからは本当にぷっつりすっぱり空白で、にっちもさっちもいかない。
嗚呼、せめて、あの部屋に帰れたら。
「あったかいベッドが恋しいよぅ・・・うぅ、寒い寒いさむいっ。こんな何にも無い部屋嫌だぁー!」
・・・ん?いや待て待て。
あんな御大層な電子ロック付けといて、中に何も無いなんてあり得ないよね?
せめて食べ物とか、毛布とか、あっても良さそう・・・だよね?
「よ、よし。・・・・・・・・・・・・さ・・探しに、行ってみよー」
大分間があったのは、正直暗闇に怯んだから・・・あぁやっぱり怖いかも・・!
そうだ、まずここから真っ直ぐ歩いて行って、また真っ直ぐ戻って来ればいい。
部屋の大きさも確認できるし、この、扉から漏れてる光に沿って行けば道には迷わない。
「・・二十九、三十、・・・」
歩き出すと、以外に大きかった部屋に驚いた。
精々十歩ぐらいかと思っていたのに、もしかしてここは何かの地下施設か何かだったりするのだろうか?
そう思いながら足を動かす。扉からの光の筋が少し向こうで途切れているようだった。
もし、そこに壁が無くても一旦引き返そう、そう思っていた時だった。
「五十九、六十、・・・?」
足元の光が揺らいだ気がした。見間違いかと目をこすって再度見つめる。
揺らいではいなかった、しかし。
先程より格段に、光が細くなっていた。そして、
・・・ギギィッ・・
「・・・え」
光がなくなる。加えてこの音が、意味するのは。
「!! ま、待っ」
イコール、扉が閉まろうとする、即ち、・・・正真正銘の真っ暗闇。
「・・・っ!」
駆け出した。真っ直ぐとか、歩数とか、そんなのは考える暇もなく、とにかく必死で。
でも、元々ほんの少ししか開けていなかった扉。閉まるのも、勿論速かった。
――・・・ガコン。
無情にも閉まる扉、途端に空間を支配する闇、闇、闇。
「・・はぁー・・・ミスった」
外からの最後の名残が、その場でしゃがみ込んだの頬をひやっと撫でていく。
外は強い風だったから、きっと扉が押されてしまったのだろう。
いくら寒くても、もっと開けておくべきだったと後悔したが既に後の祭り。
部屋の真ん中(推定)で途方に暮れるに、為す術は無かった。
そのまま走りきれば扉までたどり着いたかもしれない。
でも私はその場でつい、止まってしまったのだ。
―――そう、その部屋の、真ん中で。
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