白いダリアと蒼い薔薇 宙 7
リビング?だと思われる部屋に入ると同時に、でかい鍋が運ばれてきた。
ん?じゃあこの茶色のくるっとした髪のひとがロナン・・さん?だったのか。
そして促されて座ったのはソロモンの隣の席。
隣・・・隣だよ!? 二回目だけど、やっぱり嬉しすぎるって!
ていうか恐れ多いほどだよ!
思わずテーブルをバンバン叩きそうになっただが思いとどまる。(当たり前)
うおお、と不自然に震える手を押し留めていると、ふいに横から声がした。
いや、正確にはどこから声がしたのか分からなかった。
ただ声の主がソロモンだったから、そう判断しただけだ。
『カール。夕食ですよ。もいるんですからたまには出てきてください。
あ、因みに今夜はシチューです』
言葉の後に、低い声で何か呟いたような声も聞こえたが、それは全然聞き取れなかった。
ていうか大体、あんな小さな声で言っても、カールは聞いちゃいないと思うんだけど。
まあ、多分すごい聴力でもあるんだろう。
ロナンさんが、がぱっとシチューの鍋の蓋を開けると湯気が立ち昇った。
おお、おいしそう。
個々の皿に取り分けてくれて、「いただきます」をしてから食べ始めた。
数分後。
ガチャリとドアを開けて、カールが入ってきた。
見事な仏頂面。ソロモンを一瞥してから、空いている席に腰掛けた。
「あれ?工場長。夕食に来るなんて珍しいですねー。今、お皿持ってきますんで。」
「・・・いらん」
「まあまあ、そういわずに。私のシチューはホントにおいしいんですから」
皿にシチューを取り分けられて、渋々カールも食べ始める。
うわー、なんだかすごくほのぼのした雰囲気だなぁ。
毎日これが続けばいいのに。
「あはは、なんだか面白いですね、CEOと工場長が二人揃って夕飯を食べるなんて。
CEOが呼んだんですか?」
「まさか。カールが自分で来たんですよ。ね、カール?」
「・・・・・ふん」
あれ? さっきソロモン、カールを呼ばなかったっけ?
「は〜、お風呂、気持ちよかったぁ!」
夕食後、特にすることもなかったのでゆっくりお風呂に入った。
何も言わずに着替えまで用意してくれて嬉しいんだけど、残念な事にこれはあんまり意味を成さない。
何でかって、ここはベトナム。夜とはいえとっても蒸し暑い。
初日、そのままで寝ようとしたら暑すぎて、結局脱いじゃったんだよね。
明日の朝も早起きして、誰かが起こしに来る前に着ないと。
階段をスリッパでぺたん、ぺたんと上っていくと、ベランダのガラス戸の向こうに、人影が見えた。
・・・? ソロモンと、ヴァンかな?
部屋に向かうのを中断して近づいていき、ひたりと手のひらをガラス戸にあてた。
「ー、・・ムライマンについて、−−−−―――」
ひやり。
ガラスから伝わる指先の冷たさが、その一瞬で一層増した気がした。
ぴきん、と硬直する。
ぐるぐると映像が流れだす。
そうだ、私は知っている。この場面は・・・
私も既にその一部になっているのだ、 そう思うと怖くなった。
一人、独り、私はたったひとりなんだ、この『世界』で。
次に何が起こるか知っている。
誰が死ぬのかさえ。
・・・そう、今そこにいる、ソロモンですらも、 結局は、
・・・ぺたり。
「へ?」
ふと影が落ちて見上げた先には、コテンと首を傾げて微笑むソロモン。
そしてよくよく見れば、ガラス越しに私の両手とぴったり手を合わせている。
・・・え?!何だコレ恥ずかし―――――!!!
全速力で手を離すと戸を開けてくれた。・・・なんだか笑われてる。くそう・・・
「どうしました?」
「いっいえ特に何も! あ、え、えと・・おやすみなさい?」
「はい、おやすみなさい。今日は疲れたでしょう、ゆっくり眠ってください」
ソロモンはそう言うと、優しく私の頭を撫でて・・・ ・・・撫でて?
・・・身体が一気に熱くなった気がする。
眠るなんて、できっこないよ!
が去るとソロモンは再びベランダにもたれ、ヴァンはその傍らに立った。
中庭では未だカールが、コンテナを愛でている。
ため息を一つついたソロモンは一言、ぽつりと呟いた。
「・・・やっぱり、年相応の女の子ですよねぇ」
「?はあ・・・」
あの朝まで、あともう少し。
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