傘立てトリップ
trip.9
暫く療養するように、と言われてしまったので、
この部屋はもちろん、ベットから降りることさえなかなか許してもらえない日々が数日間続いた。
まあ確かに頭はぐらぐらふわふわゆらゆらしてて、おかしいなあとは思っていたんだけど、
ものの見事に私は酷い風邪をこじらせていたらしい。
脇腹の傷からウイルスがーとか極寒の屋外で一夜過ごすなんてーとかぎゃあぎゃあと騒がれてたから、
私はきっと相当危ないことをしていたのだろう。・・・まあ、全くもって不可抗力なんだけど。
当人の私はといえば、暇だとか外に行きたいだとか考えられるどころではなく、
ベッドの上でひたすら唸っているだけだった。というかそうせざるをえなかった。
頭を動かせば乗り物酔いにでもなったかのような吐き気、
加えて眩しさで頭痛がするので眼を開けることすら億劫で、仕方がないからずっと寝ていた。
んで、今、何回目かもわからない朝を迎えたわけですが。
「ん・・・・・・・・・ぅあ? ・・・・・あ、朝かぁ・・・」
もぞもぞ。
ベットの中で寝返りをうつと、医務室のカーテンから差し込む朝日が私を優しく暖めた。
・・・・・ん?なんかおかしいなあ。いつもなら此処で頭痛が・・・・あれ、無い?
・・・・・・・・お、遂に治った??!
よっこらせ、と上半身を起こすが変わりなし。
・・・ホントに治ってる!
「うあー・・・感激!!」
思わずよっしゃ!!!とガッツポーズしたところで、控えめにドアがノックされた。
「あ、どうぞー」
がちゃり、とドアが開く。
そこにいたのはリナリーだった。身体を起こしている私の姿を見るなりぱっと顔を綻ばせて微笑む。
「あら?!、治ったのね!よかった!」
「(うあーリナリー!リナリーだ可愛い!!!)・・・あ、はい、おかげ様で!」
なんていうか、名前で呼ばれるのに慣れないな・・・あ、それ以前に私苗字名乗ってなかったうっかり!
どうしようかな・・・日本の苗字の方が慣れてるけど、名前が名前だしな・・・お父さんの旧姓でいくか。
ぽすっ、と額に柔らかな感触がした。リナリーが手を当てたのだ。
「よし、熱も無いわね。・・・・あ!私、リナリー・リーって言うの。リナリーって呼んで?」
「うん、始めまして、リナリー」
名前呼びのお許しが出たことが嬉しくて思わず微笑むと、彼女はちょっと悪戯っぽく笑った。
「ホントは始めましてじゃないんだけどね。私、ずっとあなたの看病をしてたの。覚えてない?」
「え?! そうだったんだ、ごめん、手間掛けさせて!」
「いいのよ!元はと言えば兄さんが全っ部悪いんだから!!に気がつけなかったのもそのせいなのよ」
「・・・兄さん?」
・・・自分でも白々しいとは思うが、ここは聞いておくべき所だろう、多分。
まあ、聞かなくても外にいたときに聞こえてきた大絶叫からして、何が起こったのか9割方予想がつく。
大方、黒の教団壊滅未遂事件でコムリンが暴走して、私どころじゃなかったんだろう。
・・・・・今更ながら、そんなのでやっていけるのか黒の教団。これじゃ危うく内部崩壊じゃないか!
「コムイ・リーっていって、ここの室長をしてるの。あなたはもう会ったわよね?」
「いろいろ説明してくれた人だよね? ・・・あの人がやったの?」
コレ、と部屋に入った大きな裂け目(今は応急処置が施されている)を指差しながら問うと、
彼女は相当怒りが溜まっていた様で、途端に兄に対する愚痴が口をついて出てきた。
「そうなのよ!!兄さん、発明が趣味なんだけど、ろくな物を作らなくて!
今回だって、もうちょっとでここが崩壊するところだったのよ!!」
あわわ・・・これは大分怒ってるなあ・・・;
最後のあの蹴り、凄かったもんな・・・彼女だけは怒らせないようにしなきゃ・・・!
ぎゅっ
「・・・へ?」
唐突に手を握られる。見ると、リナリーが凄くきらきらした目でこちらを見つめていた。
・・・・・・ちょ、か、可愛いいいいぃいいい!!!
ななな、なんだこれー・・・!上目遣いとか!なんでこの子はこんなに可愛いんだあー!!
「わたし、同世代の女の子の友達がいなくて寂しかったの。が来てくれて本当に嬉しいわ!
だから・・・これからもよろしくね!」
「もちろん!」
ええ、もちろんですとも!こんな可愛い女の子に言い寄られてNOなんて言えないよ!
・・・・・私、女で良かった! 男だったら確実にコムイさんに殺されそうだ!!
「ふふっ!良かった。 あ、のトレーニングは私が担当するわ。頑張りましょうね!!」
うっ・・・トレーニング、やりたくない・・・
でも仕方ないか・・リナリー、スパルタじゃないといいな・・・!
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「ここは教団の人たちが生活する居住区。このあたりの階は探索部隊の人が多く入居してるみたいね」
「ふへー・・・広っ!!」
とりあえず、挨拶回りも兼ねて教団を案内してもらうことになりましたー。
にしても広い。横の森から眺めた時も十分そう思ったけど、改めて中から見てみるとまた圧巻って言うか。
・・・へブラスカのいるところって何処だろう?一番下の階?
この回廊から落ちてったら受け止めてくれたりするんだろうか、と手摺から身を乗り出そうとして、
「・・・・・・・」
・・・やめた。 あまりの高さにくらっとしたからだ。
「ね、一番下には何があるの?」
「一階のこと?一階はエントランスよ」
あれ?じゃあヘブラスカはどこに・・・?
「玄関?そうなんだ・・・」
「そうなんだ・・って、、ここに入るには・・・あ、そっか、あなたは見たこと無かったのよね」
じゃあそこも見学しましょ、と微笑むリナリーに素直に頷いた。
上から下っていきながら順番に見学していく。
私がいた医療班フロア、
お風呂、修練場、談話室。
お風呂は男女別で、教団には女性の数が圧倒的に少ないから凄く空いてるらしい。
あと修練場では探索部隊もエクソシストも鍛錬してるから、
イノセンス発動時には巻き込まれないように気をつけて、とか言われた。
確かに、巻き込まれたらただじゃすまないだろうな・・・
「・・あ!」
食堂まで来たとき、リナリーが声を上げて立ち止まったと思ったら食堂の入り口に向かって駆け出した。
とりあえず後を追う。誰か知り合いを見つけたようだ。向こうも気付いたみたいで、立ち止まって振り返る。
・・・ってあれ?あの白い髪はもしや!
「アレン君!今からお昼?」
「ええ。・・・あ、!元気になったんですね!」
気付いてくれたー!名前呼んでくれたー!!
「あはは、お陰様で。ええと、門の前で会ったよね?あの時はありがとう」
もうホント死ぬかと思ったからね。アレンが来てくれなかったらどうなってたか。
「え・・あ、いえいえ、どういたしまして。・・もお昼食べに来たんですか?」
「にここの教団を案内してて通りかかったのよ。丁度いいから一緒に食べましょ」
「うん!」
アレンとリナリーとご飯食べられるなんて、なんて幸せなんだ、私!!
「あ、は食堂使うの初めてでしたね。僕がまず頼んで来るんで、見てたらやり方も分かると思います」
「アラん!アレン君、いらっしゃーい!今日は何がいいのかしら?」
ぅおう、出た!食堂名物(?)ジェリーさん!マジでこんな口調なんだ・・・うわぁ・・・
「ええとですね・・・」
・・・ここからが凄かった。
「・・じゃあ、キノコのリゾットに豚骨ラーメン、チャーハンと七面鳥の丸焼きとオムライスとミートソースのスパゲッティ、ギョーザとカレーとポテトスープにハンバーグとサンドイッチとコロッケとホットドッグ。あ、デザートはチョコパフェとたい焼き20個程お願いします。いつも通り全部量多めで」
・・・・・。ちょ、待て待て待て。
多いとかそれ以前に聞き取れなかったぞ?!早い早い!
言うこと決めてたのか?それとも食べ物の名前なら口をついて出てくるのか?
いや重要なのはコレらが全部胃の中に収まる様子を今から見てしまうだろうということだろう。
・・・耐えられるのか、私。頑張ろう、私。
「了解! すぐに作るわ!」
「あ、時間かかるでしょうし、先にこっちの二人の注文もお願いします」
「ん?アラまあ、新入りさんかしらん?! カワイイじゃなーい!お名前は?」
あわわ、凄いテンション・・・若干付いていけない。
「、です」
「ちゃんね! 何食べる?何でも言ってちょうだい!」
「え、と」
しまった。アレンに気を取られすぎて自分が食べたいもの考えてなかった!
どうしよう・・・
「う、えと、・・・・・・ら、ラーメン、お願いします」
「OK!分かったわvすぐ作るから、待ってて頂戴ね〜。 リナリーは?」
「うーん・・・Bセットを少な目の量でお願い」
なんだか普通のを頼んじゃったかなー・・・まあいっか、普通で。
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