傘立てトリップ
trip.10
「「「ごちそうさまでしたー」」」
三人一緒にトレイ(アレンはカート・・・!)を返し、食堂を出た。
・・・ら、急に誰かに呼び止められた。
「お!ちゃん・・・にリナリー、アレン君じゃないか、丁度いいところに!」
振り返ると、コムイさんがこちらに向かって歩いてくる所だった。
「コムイさん・・・仕事は大丈夫なんですか?さっきもリーバー班長が血眼で捜してましたよ」
「あっはっはー大丈夫大丈夫。今回は逃げてる訳じゃないから!
ちゃーんと仕事だからね。・・・確かにこっそり抜け出しては来たけど」
「え、兄さん、それはまずいんじゃ・・・」
同感。そりゃ駄目だろう。
「リナリー、そこは気にしない!・・・・で、僕はちゃんに用があって来たんだ」
「に?何かあったの?」
「そういうのじゃなくて・・・ほら、是非会わせたい人がいるんだ。リナリーにアレン君も来るかい?」
「・・・!コムイさん、もしかしてそれって、・・・じゃあ、付いていっていいですか?」
「私も行くわ!!」
・・・・・一体全体、私は誰と会わせられるんだ。
二人の妙な食い付きも気になるし。何このそわそわした空気。
・・・と疑問に思った私だったが、ラボを通り過ぎ、階を下り、特徴的な逆ピラミッド型の乗り物に
乗り込んで、コムイさんが下へ移動し始めた時点で、何となくわかった気がした。
・・・これ、もしかしてヘブラスカと御対面、っていうイベントだろうか。
だってこの乗り物には現在、私とコムイさんしか乗っていない。
乗り込むときに、アレンとリナリーはその場で待てと言われて残ったのだ。
加えてその時アレンからは「頑張ってください!」リナリーからは「絶対大丈夫だからね!」と
良く分からない声援を受けたし、そう言えばラボを通り過ぎた時、
コムイさんは研究員らしき人から私のイノセンス(調査中だったらしい)を受け取り、私に身に付けさせた。
それらの不可解な出来事も、ヘブラスカに会うから、と考えれば納得がいく。
・・・いく、けど、やっぱり事前に何も言ってくれないのって不安だと思う。
私は前知識として大体のことは知ってるからいいとして、普通の人は絶対トラウマになるよ?
せめて、イノセンスとの相性をチェックするよ☆ぐらい言っとけば少しはリラックスできるに違いない。
「さて。ではではご対面といこうかな♪」
妙にうきうきした様子のコムイさんがそう言い放った瞬間、上方に5人の黒尽くめの人たちが照らし出された。
『それは神のイノセンス』
『全知全能の力なり』
『またひとつ・・・我らは神を手に入れた・・・』
「この人たちはボクらのボス、大元帥の方々だよ。・・・さあ、ちゃんの価値を見てもらおう」
「はあ・・・・っうぎゃあああああああ?!」
「うん、いい悲鳴だ♪」
やっぱりきた。わかってても怖い!!
コムイさんの言葉に返事するかしないかの内に、視界の端という端からにゅっと伸びてきた白い何か。
あっという間にぐるぐる巻きにされ、気づいた時には足が床から離れていた。・・・ってえええ?!
「ひぃぃ・・・こここ怖!怖い!怖いって!!!」
【ィ・・・・・イノ・・・センス・・・・・】
不意に柔らかな声が響いた。恐々、ぐぎぎと首をひねる。
そこには・・・至近距離に白い白い白い大きなお顔(一部)が・・・
「・・・・・(に、逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃd以下略ぅううう!!!)」
無言。ただ無言であった。もう叫ぶレベルを越えました。
・・・ああ、私、とんでもない世界に来ちゃったんだなあと実感。
え?ヘブ君ぐらいで驚くのはまだ早いって?
そーなんだよね・・・これからもっとずっとヤバいものを見ていかなきゃならない予定なんだよね、私。
ふう・・・強くならねばなあ・・・主に精神が。
「はぁあああ・・・」
「ちょっとちょっとー、そこ、勝手にいろいろ諦めないでよねー。ここからがいい所なんだからー」
何だか微妙に誤解しているコムイさんの声も遠い。距離的に。
・・・これは一体地上何メートルなんだろう。
と、つらつら考えている間にシンクロ値測定が行われていたらしい。
【3%・・・12%・・・・・・18・・・・・20・・・・・・・・・】
・・・あれ、もしかしてシンクロ値、低いっぽい?
【・・・・・・22、・・・・・・・・・・・・・24、・・・・・・・・・・・・】
え、ちょ、20あたりでもう終わり?!
【・・・・・・・・・・・・・25%。・・・今の、お前と武器とのシンクロ率の最高値だ・・・】
「え「え〜?!ちょっとヘブ君、低すぎじゃない?この子、もう発動したんだよ?」
【何度やっても・・・変わらないぞ】
発言はコムイさんに遮られた。
いや、確かに私も低いなとは思ったけど、アレンは主人公だから比べるのもどうかなと思うんだ。
しかも今までまともに発動した(と思われる)のは一回だけ。この値はむしろ妥当ではないのだろうか。
コムイさんが「えー」とか「そりゃないよー」とか喚いているうちに私の身体はそっとエレベーターに戻された。
【突然・・・すまなかった・・・・・】
「あ、いえいえ・・・こちらこそ騒いじゃってすみませんでした」
【・・・お前のイノセンスは何時如何なる時もお前と共に在る・・・
・・・たとえ灰色の世界に飲み込まれようとも・・・・・私にはそう感じられた・・・・・】
「灰、色・・・?」
灰色の世界。灰色・・・グレイ? D.Gray-manの世界ってこと、だろうか。
でも、もう十分飲み込まれている気がするんですけど・・・
「よかった〜!ちゃん、イノセンスと仲良しなんだね!値が低くて心配だったけど、これなら安心だ♪」
「コムイさん・・・」
手を叩きながら嬉しそうに述べたコムイさんを振り返る。・・・やっぱり私の値は低いんだ。
「私の値・・・低い、ですよね?」
「まあ、平均よりはね。10%を切ると危険なんだけど、・・・
ちゃんの場合、もう発動は確認されたし、心配は無いよ」
「そう、ですか・・・」
その肝心の発動を自身が覚えてない訳ですが。
「大丈夫だって!確かに最近だと83%とか出した子もいるけど、シンクロ値はトレーニングで上げられるんだ」
だからみっっっちり修行すれば値は上がるよ、と言われましてもあんまり嬉しくないです室長。
だってトレーニング・・・何やるか知らないけど、きつそうなんだもん・・・
「あはは!そんなに落ち込まなくってもー。と、言うか、あれだけの能力で25%って逆に凄いと思うよ?」
「へ?」
「25%であそこまで完璧に瞬間移動が出来てたじゃない?
これが50、いやそれ以上になった時のすっごい技を是非とも見せて欲しいなあ〜」
「ええー・・・あ、はい、まあ頑張ります・・・」
でも今はとりあえず、「逃げる」技が欲しいな・・・
そうだそうだ。逃げこそ全てだし。逃げることさえ出来たら勝ちなんだ。誰からとは言わないけど。
「じゃ、ヘブ君の「預言」も無事聞けたことだし、・・・ヘブ君?・・・ヘブラスカ?」
【どうして・・・】
「?」
気付くとヘブラスカが私のほうをじっと見ていた。・・・目がどこなのかはわからないけど。
どうして、は私の台詞だ。どうして、またその白い腕(?)を伸ばして・・・
しゅるん
「え・・・」
その腕に包まれたのは、首にかけたイノセンスだった。
【ああ・・・やはり懐かしい・・・・・何故・・・】
「ヘブラスカ・・・彼女のイノセンスがどうかしたかい?」
「・・・?」
【エイドラス・・・まさか、ああ、これが・・・】
「!!! な、エイドラス、・・・だって?! それじゃ、もしかしてそれ、・・・」
え、何々、このイノセンス、そんな曰くありげな物なの?
【お前はいつか・・・いつか、灰色に紛れた光達に逢うだろう・・・・・】
・・・って預言、まだ続きあったのか。更に難解になった気がする。
誰かに逢うって。・・・誰に会うんだろう?知ってる人なのかな?敵キャラだったら怖いなあ・・・
あ、でも敵だったら光とか言わないか。
私は新たに付け足された預言の方に興味を持ったが、コムイさんとヘブラスカの興味は全く逆だったらしい。
「今、エイドラスって・・・それ、どういう意味だい?まさか、このイノセンスが・・・」
【ああ。にわかには信じられないが・・・彼女のイノセンスから、彼のイノセンスの気配を感じた】
「そんな・・・でも形状が」
【形状は違うが、確かにこれは・・・・・彼が持っていたものだ】
「イノセンスはひとつにつきひとりの使徒を選ぶ・・・なら、もう、彼は・・・」
【辛いことだが・・・おそらくもう適合者ではなくなっているのだろう。おそらく・・・】
「それは・・・彼に限って・・・そんな筈は・・・」
はい、全っ然意味わかりません!それ以前にエイドラスって誰。
まずそこから説明プリーズ!
「・・・あの、ほんとすみません、お取り込み中悪いんですけど・・・エイドラスって・・・」
「あ、ああ。ごめんね、ちゃん。
エイドラスっていうのはこの前まで教団のエクソシストだった人で・・・最近、行方不明になったんだ」
「え・・・わざと失踪とかじゃなく?」
思わずクロス元帥のことが頭に浮かんだが、それとはまた違うらしい。
「あー、まあ、そういう人もいないわけではないけど。
でもエイドラス・・・彼は何処に行こうとも行き先だけはきっちり告げていく人だったんだ。
そんな彼が任務後に連絡が取れなくなって、調べてみたら団服の切れ端だけ残して失踪。
・・・失踪だと、思っていたかった・・・」
「・・・・・」
この言葉の濁し方から察するに、そのエイドラスって人は任務後にアクマとかに殺されちゃったのかな?
コムイさん、相当ショックだったんだねえ・・・
ううむ、でも日々漫画や小説やらを読みまくってる私からすると、
これは死んだと見せかけたキャラが実は生きてました☆フラグなんじゃなかろうかと思えて仕方ない。
死体が見つかってない辺りが怪しい。あ、でもアクマにやられたら死体は残らないよなー。
というか、そもそもエイドラスなんて人、私知らないし。
そんなびっくりな生還なんてしてたら、確実に漫画に登場してそうだし、やっぱ亡くなったのかな?
その、彼のイノセンスが私のイノセンス?らしいし。
あ、そっか、だからコムイさんは彼が亡くなったって思ったのか。ああ、何だか申し訳ない・・・
「あー・・・えと、すみません・・私がこのイノセンスを持っていなかったら・・・」
「そんな!ちゃんが謝らなくていいんだよ?
むしろイノセンスだけでも無事で、こうして受け継がれていてよかった・・・」
思わず謝罪してしまったが、確かにそんな必要は私には無い。
私がこのイノセンスを持っていようが無かろうが、エイドラスさんは帰ってこないのだ。
何故エイドラスさんが行方不明で、イノセンスだけが私の元に渡ったのかはわからないが、
私が偶然イノセンスを拾わなければ・・・・・偶然?
ふと、思い出した。
このイノセンス、確かレロが何故か私の家付近に逆トリップして来た原因でもあったはず。
庭にそれが落ちていて・・・その理由も気になる。
いや、それよりも・・・どうしてレロがエイドラスさんのイノセンスを持ってたのか。そこが問題だ。
レロは何て言ってたっけ。アクマが・・・持ってきたとか何とか。
持ってきた、という事は・・・エイドラスさんから奪ってきた、ってことだよね?
そのアクマなら、何が起こったか全て知ってるんじゃ?
エイドラスさんに起こったことが、詳しくわかるかもしれない。
そう、コムイさんに伝えてみようかと思ったが、少し考えてやめておくことにした。
そもそも私は肝心のそのアクマがどんな特徴なのかすら知らない。
伝えた所で落胆させるだけだろうし、加えてレロのことなどを説明しなければならないのは面倒。
せめて教団がレロのことを知ってから、そしてできれば私がそのアクマを特定してから話したい。
それにはまず、もう一度レロと会わなければならないだろうが・・・
・・・レロって単独行動してただろうか。何だか常に千年伯爵とかロードとかと一緒にいる気がする。
・・・・・うん、無理だ。出来ない。止めとこう。
無理矢理思考を回れ右させて諦めることにした。
ホントすみません会ったことも無いエイドラスさん。私は自分の安全第一です。
-- + ----------------------------------
エイドラスって変な名前過ぎる。
Back Next
Top