傘立てトリップ
trip.11
エレベーターが到着すると、不安でいっぱいの表情の2人に出迎えられた。
やはり多めに見積もってもかなりの時間がかかっていたようで、相当心配していたようだ。
「!ああよかった、無事だったんですね!」
「が帰ってこないから、私、心配で・・・!」
駆け寄ってきたアレンには手を握られ、涙目のリナリーには横から抱きつかれ。
嬉しい。凄く嬉しいけど、そんなに心配しなくても・・・
「まあまあ、2人共。心配しなくてもちゃんはなんとも無いから安心して」
「なんとも無いって・・・じゃあ何でこんなにかかったんですか?」
「それは・・・」
尤もな質問に口ごもるコムイさん。
そりゃあ、仲間が亡くなった事が確定した、とか進んで言いたくないよね・・・
さっきまで微笑んでいたコムイさんの表情が強張ったことに
いち早く何かを察したリナリーが怪訝そうに兄を伺った。
「・・・・・兄さん?」
「リナリー・・・実は、・・・」
誤魔化すのかな、と思った。
だけど、どうやらコムイさんは言ってしまうつもりらしい。
・・・エイドラスさん、物語に出てこなかっただけで、実は重要な人?
確かにエクソシストって少ないし、全員知り合いでもおかしくはない、けど。
「う、そ・・・・・嘘よ、嘘、・・・・まさか、エイドラスが!」
「そんなっ・・・あの人が、・・・・・・」
―――驚いた。こんなにも主人公達の心に残っているなんて。
・・・・・私はそんな人、知らないのに。
注目すべきは、教団に到着してそれほど長くないアレンまでもがエイドラスさんのことを知っていたこと。
リナリーやコムイさんは昔から教団にいただろうからわかる。
でもアレンはどうだ。
自分がエクソシストだと知って、師匠について修行して、ここに辿り着くまでに
自分以外のエクソシストとそう簡単に知り合えるものだろうか。
教団に到着するまでに知り合えなかったら、あとは入団してから知り合うしかない。
しかし私はそんな話は読んでない。
それなりに知り合っていたエクソシストの死亡を知らされるなんて、いかにもありそうなのに。
・・・いや、待って待って。
そもそも私の存在こそが、物語にありえない存在なんだった。
と、いうことは、その私が持ってるイノセンスを前に所持していたエイドラスさんの存在も・・・
・・・やっぱり元の物語にありえなかった、とか?
「・・・・・」
そうなると、少なくとも私とこのイノセンス、そしてエイドラスさんは
私が知っているD.Gray-manの世界において異質な存在、になる。
共通点はこのイノセンス。
・・・これが、私とエイドラスさんの存在の鍵なのだろうか?
「・・・っちゃん!!」
「へ?!」
じっくり考察していたら、ぽけーっとしてしまっていたらしい。
気がつくと三人ともが私の顔を心配そうに覗き込んでいてびっくりする。
「・・・大丈夫ですか?」
「ごめんなさい、・・・置いてきぼりにしちゃったわね」
「え、あ、いや・・・その、エイドラスさんって・・・人気者だったんですねえ」
思いっきり置いていかれたのは別に構わなかったので話題をずらした。
謝られて居心地が悪かったのもあるけど、純粋にエイドラスさんについてもっと知りたかった。
「・・・そうね。エイドラスは大勢の人から好かれてたと思うわ」
「僕ら科学班やエクソシストだけじゃなく、いやそれ以上に探索班の人達とよくいたね」
「僕はほんの少ししか一緒にいられませんでしたけど・・・よく食堂で見かけました」
「談話室にもよくいたわね。探索班の人たちとトランプとかしてた」
「あ、それなら僕も混ぜてもらったことあります。そうしたら皆でイカサマ大会みたくなってしまって」
「後でカードを集めたらジョーカーが12枚にエースが20枚、だっけ?まったくよくやるよ」
「・・・あれ?コムイさん知ってたんですか」
「エイドラス自ら楽しそうに話してくれたよ。完敗だったって」
「でも彼、凄いんですよ。イカサマ全くしないんです。なのに強い」
「という事はアレン君はイカサマしてたのね?」
「・・・・・ええまあ、ちょっと」
リナリーの突っ込みに答えを濁すアレン。うわー気まずい。
まあアレンはこれからイカサマでクロウリーを助けるんだから大目に見てやってねリナリー!
「・・・とまあこんな風にエイドラスは人気者だったよ。戦闘も凄く強かったんだ」
「へー・・・凄いですね、どんな風に戦うんですか?」
「射程範囲内に入ったアクマを爆破させるんだ。一気に20体全滅させたこともあったかな」
「え?!」
エイドラスさんは人望があっただけでなく、戦いも強かったらしい。
もしかしたら同じイノセンスのようだし、同じ技が使えても不思議じゃない。私も使えるだろうか・・・
「・・・ん?でもそれだとおかしいな。確かちゃんのそのイノセンス、能力は」
「瞬間移動・・・だったわよね?」
「・・・あ、そういえば」
「・・・・・僕、身をもって体験しましたよ」
「「「「・・・・・?」」」」
・・・私のイノセンスって、一体何なんだろう。
「あ、コムイ室長!全く、勝手に抜け出さないでくださいよ!書類溜まってるんすよ!!」
「あはは、ごめんごめん。でも僕ちゃんと仕事してたよ?」
「は?何処が・・・あれ、その子」
ラボまで戻ってくると、足を踏み入れて間もない内に一人の白衣の男性がこちらまで駆けて来た。
少々イラついているようで半眼でコムイさんを睨み付けた彼だったが、ふと私に気付いて目を見開く。
・・・ん?この人リーバー班長か。うわ・・・明らかに寝不足っぽい。
「うん、ちゃんだよ。やっと元気になったからちょっとヘブ君の所へ行って来たんだ」
「えと・・・はじめまして」
「ああ、回復したんだな。オレはリーバー・ウェンハム、班長だ。こちらこそよろしく。
・・・で、室長。ヘブラスカは何て?」
「んー・・・シンクロ率は25%。でもイノセンスとの仲はいいみたいだね」
「25%・・・微妙っすね」
「まだまだ伸びるってことだよ。あと、もう1つ報告する事があるんだけど・・・後でいいかな」
「?・・・はい」
煮え切らないコムイさんの様子に怪訝な表情のリーバーさん。
私達全員がそんな微妙な表情をしているものだから、彼の目には相当奇妙に映ったことだろう。
しかし睡眠不足とストレスで大分参っている様子のリーバーさんはそれには特に突っ込まず、
あえて一番重要な所のみを確認するだけに止めた。
「あ〜・・・じゃあ後にするとして」
ガシッ
「へ?リーバー君??」
「溜まってる分の仕事、片付けましょう?」
「えええええ!ちょ、ちょっと待ってよリーバー君!僕さっきまで仕事・・・」
「はいはい、皆待ってるんですからね、行きますよー」
「そんなー!ちょっとぐらい・・・・たって・・・じゃないか・・・・嫌だああぁぁぁ・・・・・」
目にも留まらぬ速さでコムイさんの腕をギッチリ掴んだリーバーさんは、
文句たらたらのコムイさんをものともせず、ずーるずーると引きずって行ってしまった。
威厳など微塵も感じさせない悲鳴と言い訳が段々遠くなり、そして・・・ラボの喧騒の中に消える。
こんなに大騒ぎしているのに見向きもしない研究員達が哀しい。いつものことなんですかコレ。
「ん?君、この前来たエクソシスト?そのイノセンス、調査するから貸してくれないかな」
「へ?!・・・あ、はい!すみません、・・・ど、どうぞ」
「ありがとう。まあすぐに終わると思うから、明日ぐらい取りに来てよ」
「わかりました!」
突然そこらのモブキャラだと思っていた研究員のおじさんに話しかけられ、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
そう言えばヘブラスカの所に行く前、ここからイノセンスを受け取ったんだった、すっかり忘れてた。
そう考えればいつの間にかベッドサイドから無くなってたのにも全然気付かなかったってことだよね。
私、鈍すぎるんだろうか・・・エクソシストとして。
今まで貴重品といえば携帯と財布と音楽プレイヤーぐらいだったからな・・・急に増えても実感湧かない。
あ、それとさっきのおじさん、モブキャラとか思っててごめんなさい。
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「・・・その、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「?」
ラボから出た後、三人で見学を再開した私達。
一気に下まで降りてしまったから、今度は上りながらの移動となった。
コムイさんの研究室?まで階段を上ってきた所で、戸惑いながらも切り出された質問。
見るとリナリーまでも私を見つめていて、どうやらこれは2人からの質問らしいと推測した。
「気分を害したらすみません。は・・・本当にエイドラスさんと知り合いじゃないんですか?」
「いや、全然」
「でも、じゃあイノセンスはどこで見つけたんですか?」
「どこでって・・・」
自分の家の庭。・・・と、この場合言ってしまって果たして良いものか。
そう答えた場合、絶対に次の質問は「家の場所は?」だろう。
で、家の場所は日本。仮想じゃない21世紀のね☆・・・なんて答えた日には私、頭がおかしい人扱い決定だ。
大体、まだ日本じゃなくて江戸だし。現在アクマの巣窟だし。普通に実家があるはずが無い。
思えばコムイさんには「ブローカーに追っかけられて逃げてきた」としか言ってなかった。
さて、それに繋げてうまく話を作るにはどうすればいいんだろう。
レロもロードもティキもそのうち2人と会う訳だし、変な傘とブローカー扱いでいいよね?
「?」
「あー・・・ええとですね、見つけたっていうより、貰ったんだよね、変な傘のお化けに」
「・・・・傘の、お化け?」
「うん。カボチャっぽい頭が付いていて、跳ねてた所を捕まえたんだけど」
「捕まえ・・・・って勇気あるわね、」
「いやまあ、狭い所に挟まってた所を抜いただけなんで」
「アクマだとすると随分マヌケですね」
アレン、さり気無く酷い。
でも確かにマヌケすぎる。木を隠すには森!とでも思ったんだろうか。馬鹿だろ。
「で、話を聞くと何か大事なものを落として探しているみたいだったから、一緒に探してあげようかなと」
「御人好し過ぎるわ・・・」
「そうしたら私が見つけたので思わず自分のにしちゃった」
「、それは貰ったんじゃなくて奪ったって言うんです」
「でも結果的にはそれで正解だったみたいね。、普通はそういう事しちゃだめよ?」
「しないって。お化け相手だったのでいいかなーと思っただけで」
「どんな理論ですかそれ」
本当はイノセンスが伯爵側に渡ったらまずいだろ!と思ったからだけどね。
「それでネックレスを拾って首に掛けて、真ん中のクロスをはめたら黒いもやみたいなのが出てきて、」
「あ!それって僕もなりましたよね?教団前で・・・」
「え、そうなんだ?それが私とそのお化けを包んだと思ったら、次の瞬間どこかに落ちちゃって」
「瞬間移動したのね?何処に落ちたの?」
「それが・・・今となってもさっぱりわからないんだよね」
「わからないんですか?」
「いや、多分相当でかいお屋敷の中だったのはわかるよ。でもその場所がねー」
多分ノアや伯爵が利用するお屋敷だったんだろうけど、まさか教団の近くには無いだろうし。
かと言って遠くにあったとしたら、レロで飛んで行ける筈が無いし。
・・・これって結構矛盾してると思う。
「・・・そのお屋敷の人には会ったの?名前とかがわかれば調べられるわ」
「え・・名前?」
ティキとロード(と推定千年公も)ですが。これ、言っちゃって良いのかな?
まあ、私の話ではレロはアクマ、ティキとロードはブローカーっていう設定だから、
あくまで彼らを人間として話してしまえば今のところ不審ではないかな・・・
「えーと。・・・ティキっていう男の人と、ロードっていう女の子」
「男の人と、女の子?親子かしら」
「兄妹かもしれませんよ」
うん、ある意味アレン正解。
「・・・でね、その人たち、私を追い掛けて来たから逃げたの」
「そりゃあ、急に家の中に現れたら不審人物ですもんね」
「いや、それだけじゃなくて。何だか、イノセンスを伯爵に見せる、とか言ってたから・・・」
レロが。
ティキとロードはそんな理由で追いかけて来なかった。彼らはゴスロリのメイド服目的だった。恐ろしい。
「!!・・・のイノセンスを狙っていたとすると、もしかしてその二人が、
が言っていた『ブローカー』ですか?」
「ブローカー!?、そんな人達に追いかけられていたの?」
「うえ?!え、あ、あー・・・うん、多分?」
くわっと食いついたリナリーに吃驚して変な返事となってしまった。
だって本当はブローカーじゃなくてノアだから、なんだかはっきり返事するのも心苦しい・・・
「・・・でも、どうしてその二人がブローカーだと?」
「え?・・・・ええ、と。その・・・お、お父さんとお母さんが昔、『伯爵』って呼ばれてる怖い人がいて、
子供を捕まえて・・・あー・・・『イノセンス』っていう魂的な物を抜いて悪魔にしちゃうから、
手下の『ブローカー』にはついて行っちゃ駄目だって言ってて、それで・・・」
なんと苦しい言い訳だろう。怪しい。怪しすぎる。何てったって私作。出来立てほやほや。
でもソース元とされる両親はこの世界にすらいないわけだから安心だよね。
「うーん・・・ちょっと間違ってますけど、随分詳しいですね。その御両親は今何処に?」
「あ・・・い、いません(旅行で)」
「え・・・・・すみません、。辛いことを聞いてしまって・・・」
「えっ?・・・・あ、い、いやっ全然気にしてないんで!」
気にする以前に多分アレンが考えてるような状態じゃないんで私!
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