傘立てトリップ
trip.12
「そう言えば・・・はここに来た時、凄く豪華なドレスを着てましたけど、
実は何処かのご令嬢だったりするんですか?名字も聞いてませんでしたね」
「え?・・・あ、、だけど」
暫くして問われた単語にはとっさに反応できなかった。
ドレス。
ご令嬢。
はて、何の事だろうと目を瞬かせた。・・・が、程なく思い至った。
あれだ。ロードに着せられた、無駄に装飾が付きまくった重いドレス。
木の上に落ちたり土で擦ったり夜露に濡れたり散々な扱いをしたから、それはもう傷みきっていたに違いない。
医務室で目覚めた時、私はもう着替えさせられていたからすっかり忘れていた。
「いや、アレは私のじゃなくて、その・・・」
ロードのです。無理矢理着せられました。もうちょっとでゴスロリのメイド服も着せられる所でした。
・・・とはあまり言いたくない。
だってそんな事を言ったらアレンとリナリーの、ロードとティキに対する印象がどうなるかおそろしい。
ただでさえ、彼らはノアで、教団の敵だと後で身をもって知るのに、
前知識が『ゴスロリ好き』と『メイド服好き』っていろいろと残念すぎる。
・・・いや、ロードのゴスロリ好きはいっその事許容範囲の内だ。問題はティキだろう、どう考えても。
「のじゃないの?まあ、あんな服、日常的には着ないでしょうけど」
「ええと。・・・実は、さっき言ったロードっていう女の子に着せられたんだよね」
「え、でも追いかけられたんですよね?」
「ああ、それは私が逃げたからで・・・」
うーん、ここまで来たら詳細を全部話してしまうべきだろうか。
でもそうしてしまうとティキの微妙な趣味が・・・
ああもう面倒くさい。なるようになれ。私は責任取らないからね!
「という事はブローカー達はが逃げ出すまでは友好的だった、と」
「油断させてイノセンスを奪おうとしたのかもしれないわ」
「いやあ、全然友好的じゃなかったよ実際。
女の子って言ったけど、服着替えさせるのに、私頭殴られて気絶させられたんだよ?」
「「えっ?!」」
まさかブローカーとはいえ女の子がそんな手段を用いるとは思っていなかったらしく、
二人の目が大きく見開かれた。
友好的、だったのは表面、本当に表面上だけで、むしろ身の危険を感じることの方が多かった。
唯一使え・・・頼れそうなのがレロとは、なんとも心細かった。うん、私良く頑張ったよ。
「ちょ、、なんで言わなかったんですか!」
「痛くない?今からでももう一回、医務室に・・・」
途端にわたわたと慌てだした二人に軽く手を振って大丈夫だよ、と弁解したけど、
心配そうな視線が突き刺さる。
実際、思い出すまで気にもならなかったぐらいだ。本当に大丈夫なんだろう。
案外私は石頭だったのかなあ、なんて考えながら、階段を上った。
「でもそうなると、が会ったその女の子、本当に人間だったのか怪しいですね・・・」
「え」
不意にぽつりと呟かれた考察に、ギクッと一瞬身体が強張る。
ちょ、アレン鋭すぎるよ!
「どういうこと?」
「だって女の子ですよ。流石にまだ伯爵と取引できるような年齢じゃないでしょう。
仮に一緒にいたっていう、ティキ、でしたっけ。その男性がブローカーで、女の子が手伝ってたとしても、
出来ることって精々を引き止めるとか、それぐらいじゃないですか?
それが、頭を殴って気絶させた上に着替えさせるって・・・」
「・・・その子が、アクマだったっていうの?」
「その可能性は無いとは言い切れないですね」
難しい顔をしてそう言ったアレンは暫く何か考えていたが、
「まあ、が無事で何よりですけどね」と微笑んだ。
つられるようにリナリーも微笑んだから、つい私も微笑んだ。
「わからないのは、彼らがをすぐに襲ってイノセンスを奪わなかった事、でしょうか・・・」
再びぎくりと顔が引きつった。
何度も言うようだが彼らが私を襲わなかった理由はゴスロリのメイド服だ。
・・・もしかしたら生きたまま伯爵に引き渡したかったのかもしれないけど。
まあともかく、こんな真相が明かされたら、微妙な空気になること間違い無し・・・
「・・・、?どうしました?・・・何か心当たりでもあるんですか?」
「へ」
「その二人と何かあったの?・・・まさか、脅されてるとか」
「は、え・・おどっ?!」
脅されるとかそんなまさか。
確かに命の危険は感じたけど、それは私が大人しくゴスロリでもメイド服でも着れば回避できる。嫌だけど。
・・・あれ、そう言えば私が逃げる直前、ティキが私を探しに来たのって私を伯爵の所へ連れて行くためだよね。
で、もし私が「嫌だ」って言ったら・・・
「・・・・・脅されてた、かも」
「ええっ?!今更ですよ!それに『かも』って何なんですか」
「殴られた事といい、は思い出すのが遅いのよ!」
「ええー・・・ご、ごめん・・・」
何だか二人に流されて謝ってしまった。
でも心の中でひっそり言い訳するならば、今のは
『私、今気付いたけど脅されてた☆』じゃなくて、
『私、もしかすると脅されてたかも☆』という、仮定の上での話だったんだよね。
後半部分だけ口に出しちゃったものだから誤解を招いてしまったけど、どうしよう。
・・・いちいち弁解するのも面倒くさいし、このままでいっか。
「じゃあ、何を脅されていたんですか?イノセンス以外に、彼らが欲しがる物の見当がつきませんが」
「えー・・・と」
・・・そう来たか。またもうアレンは答えにくい質問をしてくれる。
うん、でももういいや。面倒くさいから適当に言っちゃおう。ティキがメイド服好きだろうが知るか!!
「多分・・・私に、ゴスロリのメイド服を着せたいんじゃないかな」
「・・・は?」
「あ、それ、がここに来た時に言ってたわよね?」
「うん・・・」
リナリー、物覚え良いね!そこは覚えて無くてよかったけどね!
「え、じゃあが追われたり脅されたりした理由って・・・っ」
「を暴力で好き勝手にしようとするなんて酷いわ!なんて人たちなの!!」
「・・・・・」
・・・これは二人の間でブローカー(アクマ?)二人組みが、人を殴り倒した上ゴスロリのメイド服を
無理矢理着せようと追っかけたり脅したりした変態、になってしまってはいないか。いやまあ大体あってるけど。
・・・・・・・そうか、大体あってるならそれでいいじゃないか。
彼らの正体を知っているからってわざわざビクビクしなくても、
アレンらの想像に乗っかって被害者の対応をしていれば問題は無いんだ。
「あー・・・あの、お二方、結局無事だったんだし、そんなに怒らなくても」
「駄目よ!そんなのじゃ、ああもう!こうしちゃいられないわ!!
・・・私、兄さんに今の話を伝えてくる!」
「ええっ!?リナリー、の案内はどうするんですか!」
「アレン君、後は頼んだわ!私は一刻も早くの仇を討ちたいの!」
「仇って・・・」
半分呆れた様にアレンが呟く。
その声は、既に軽やかに走り出し小さくなったリナリーの耳には絶対に届いていなかっただろう。
結局その日はアレンが病み上がりの私を気遣ってくれて、与えられた自室へ案内して終了となった。
私の部屋はこれまたコムイさんが気遣ってくれたのか、リナリーの部屋の隣。
反対のお隣さんもリナリーですよ、と説明されて頭がこんがらがってしまったが、
どうやらコミックで紹介されたコムイさんまみれの部屋がそこらしい。
・・・間違えて入らないようにしようと固く誓った。
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