傘立てトリップ



trip.6









あれから、きっと何時間も経った。

もしかしたら、もっと経っているかもしれない。

あのあとから記憶が無くて、目を開けたとき映った白んだ空から、

多分眠ってしまっていたんだと思う。

そんなことより、体がものすごく冷え切ってしまっていることが気がかりだ。

なんだか手の感覚がほとんど無いんですけど。凍っちゃってないよねこれ?


手だけじゃなく体も冷えていて、

蝶にやられた傷も凍っていてくれないかな、と微かに体を動かしたら、かなり痛かった。

感じる感覚としては本当にそれだけで、心なしか意識も朦朧としている。


ああ、何がどうしてこんなことになっちゃっているんだろう?

少なくとも原因はあのイノセンス、だと思う。

そうすると能力は・・・異世界トリップ?・・・なわけないか。

そんな都合のいい能力、あるわけないし。第一、戦闘なんかに使えやしない。

ああなんかもう、どうでもいいや。私、このまま死んじゃいそうだし。

ゴーレムからの反応も無いし・・・



ぱたぱたっ

キュインッ

「ジー______ザザッ____、君、誰?」



やっと繋がった!!あ〜ムカつく、散々人を待たしておいてっ!罵ってやる!


ぱくぱく。



あ、あれ?声まで出なくなってる!ひどい、ひどすぎるよ!


「ん?大丈夫かい?・・・ちょっと、もうちょっと近づけてみて」


ゴーレムからの声で(多分コムイさん)、すいっとゴーレムが口元まで近寄ってきてくれたので、

かろうじて小さな声を出すことができた。



「・・っ普通の、人間、です・・・!」

「ちょっと聞くけど、どうやってここに来たんだい?

 申し訳ないことに今の今までコムリ・・ごほん! 失礼、諸事情で離れていてね、

 ゴーレムの通信が切れていたようなんだ。

 君がここに来たときの映像も無くて・・・出血してるじゃない、何かに襲われたの?」


まさか伯爵作の食人ゴーレムに襲われた、だなんて答えられないし、

ましてや上から落ちてきました、とも言えないし。 さてどうしよう。


それより、視界がかすんできて、そろそろ危ない状態なんじゃ無いのか私。

うまく考えられない。 いっその事本当に落ちてきましたって言ってしまおうか。

「ちょっ・・と、  追われてて、逃げて、来たん・・・・です、

 夜からずっと・・、ここで、____っ・・・・」


「ちょ、本当に大丈夫?!追われてたって、どうして?」


この期に及んでまだ質問するか。こっちはもう限界だってのに・・・!




「なんでって・・・・・ゴスロリのメイド?」






「・・・・・・  わ・・錯乱しちゃってるよ!早く、誰か行ってやって!!」






何言ってるんだよ、自分?

そろそろ本当にやばくなってきてるかも。でも一応真実なんです・・・。



それから、何も考えられなくなって、目を閉じた。






















マテールから帰ってきて、コムリンに襲われて、

一夜明けてララのイノセンスをやっと渡せたところで、リーバー班長が駆け込んできた。


「っ室長!門のところに侵入者が・・・」

「え〜なんで分からなかったの?ゴーレム飛ばしてるじゃない」

「それがコムリンのせいで通信が途切れてまして・・・とにかく早く来てください!」


侵入者か。なんだか自分と状況が似てるな、と思って可哀想になった。

全ての侵入者がアクマとか、そういうものではないのに。現に自分だって・・・


そう思ったときには、既に口に出していた。


「あの、僕もついていっていいですか?」

「気になるかい?」

「ま、まあそうですけど・・・ほら、もしアクマだったら僕の目でわかりますし」

「んー・・・そうだね、いいよ、ついてきて」


気になるか、と問われて思わず言葉を濁すなんて、自分らしくないなあとコムイさんの後ろについて歩く。

着くともう既にたくさんの人がモニターを見ていて、コムイさんと最前列に出た。

やっとゴーレムとの通信が繋がったらしく、コムイさんが「君、誰?」などと質問している間、

モニターに映った侵入者を見ることができた。


女の子だ。何故かずいぶんと派手な服装をしている。

今時、貴族の仮装パーティでもなかなかお目にかかれないだろう。

さらに観察してみると、脇腹の辺りから出血しているのが分かって、室長に声をかける。


「あの、コムイさん、この子、怪我してるんですけど・・・」

「え?ああ本当だ。・・出血してるじゃない、何かに襲われたの?」


指摘を受けて室長はさらに質問した。

女の子は昨日の夜からずっとその場所にいたらしい。かなり苦しそうだ。

苦しそうというか・・・なにか朦朧としてきているような。

これは早く保護しないと危ないかもしれない。

アレンがそんなことを思い始めていると、室長からの質問に女の子が答えた。

しかしその答えに、見ていた人全員が一瞬思考停止してしまった。




『なんでって・・・・・ゴスロリのメイド?』




・・なんだか本当に危険かもしれない。何故そこでその単語が。






固まる一同の沈黙を破ったのはコムイ室長だった。


「・・・・・・  わ・・錯乱しちゃってるよ!早く、誰か行ってやって!!」


・・さっきの単語を「錯乱」の一言でまとめちゃったよこの人!!

やっぱり偉大だ!室長の名は伊達じゃなかったんですね!!


まるでそんな声が一同から聞こえてくるようだった。




「僕・・・行かせてもらっていいですか?」



しかしそのままでは女の子が放っとかれたままなので声を上げる。

するとコムイさんは小さく笑って、いいよ、といってくれた後、

少し声を落として「ところであの子・・・アクマかい?」と聞いてきた。

目を細めてモニターに映る彼女を見る。何も異常は見られなかった。



「大丈夫、彼女は普通の人間ですよ」




そして、行ってきます、と言い残して部屋を出た。






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、アレンが思ってるほど普通じゃないです。





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