傘立てトリップ
trip.5
「さささ寒っ!!」
あれから10分ほど後、(とレロ)は遥か上空にいた。
ただでさえ空の上は寒いのに、レロに聞いたところ今は秋らしい。
この世界に来る前は夏・・・だったと思うのだが。
今更だけど、本当に私はDグレの世界に来てしまったらしい。
本当は躍り上がって喜びたいのだけど、泊まるところも、食べるものも、お金すらない今、
その事実が逆に私をピンチに追い込んでいる。
後頼れるところといえば・・黒の教団、だろうか。でも、たとえ辿り着けたとして、
身よりも正体も不明な私を、果たして受け入れてくれるのだろうか?
「でもとりあえず伯爵とかから逃げられたし、良かったねえ、レロ?」
「全然、良くないレロロ・・・・・」
単に逃げればいい私と違って、帰らないといけないレロは、もうこの世の終わりのような顔をしている。
でも私だってティキに殺されかけた上にロードに人形にされかけた(今でも)んだから!
「そうだよ、ロードとか・・・もうあの部屋には行きたくないよなあ」
「・・・・・・・」
「ん?どうしたの?」
思わず愚痴り始める。しかしレロからの返答は無い。
不思議に思って覗き込むがその時______レロが急停止した。
「・・・っつ!な、何?どうしたのレロってば!」
「ひいぃいい!ろーとたまのこと忘れてたレローーー!!!絶対殺されるレロローー!!!!」
「いやいやそんなことどうでもいいから!おちる!おちるって!!ぎゃーーー!!!」
更なるお仕置き執行人の存在に突然顔面蒼白のレロはなんと上空で暴れ始めた。
激しくうねりながら、今すぐ帰るレロー!!とかなんとか叫んでいる。
しかしレロの急停止によってバランスを崩し、今にも落ちそうなにはその声は届かない。
そして、それでも頑張って傘にしがみ付こうと必死なに新たな追い討ちが加わってしまった。
バサバサバサァッ!!
「きゃあっ!?今度は何!??」
「っこ、これは・・!ぎゃああ遂に来てしまったレローー!!!」
「だから何が?!・・っいだだだだ!!!」
突如としての目の前を覆った黒と音の正体が何かわかる前に、
の右の脇腹に鋭い痛みが走った。
耐え難いそれに目をやるとそこには、一匹の蝶が食いついていた。
もっとよく目を凝らすと、周りに群がった黒も、それの集合のようだ。
・・ていうかさ、これってもしかして・・・
「いたい!痛いレロ!やめるレロ!!
・・ううっ、遂にはティキたまのティーズまでもが追いついてきてしまったレロロ・・・!」
「や、やっぱりー!!!って痛っ!」
見るとさっきの蝶がまたしてもに食いついてきていた。
それを叩き落とそうと右手を傘から離し、脇腹の蝶を叩き落とす。
しかしレロもティーズに襲われてうねっているわけで。
加えて右手を離したのでバランスは取れない。
したがって。
ぐらり。
「・・・へ?」
後は重力にしたがって唯落ちていくのみ。
「ちょ・・っ!落ち、落ちてるって!たすっ・・助けてーーーーー!!!!!!」
いやあぁあああ、と落下していく。ティーズに襲われているレロには気付く術は無い。
ああ、私このまま衝突死してしまうんだろうか。
木がクッションに・・ってこの高さから落ちてなるわけ無いじゃん!!
いやだなー、こんなところで一人寂しく。
いや、ロードとティキは見つけてくれるかもしれない。
でも、でも!!できることならアレン、そうアレンに会いたかった!!
主人公に会わずして何が異世界よ!
あ〜木達、クッションになってくれないかなあ。こんな私でも受け止めて・・ください?
落ちていく間、どうでもいいことを考える。目を閉じて、そろそろ地上かな、とぼちぼち思い始めたとき
彼女の周りから一瞬、空気の圧力が消えたのを、は気付かなかった。
ドサッ!バキバキィッ!!
ものすごい音をたてて、が止まった。
その痛みに、は目を開ける。
遥か頭上にはもはや傘は見えず、ずいぶん落ちてきたのだとわかった。
代わりに見えたのはすごい数の黒い鳥。皆、徘徊するようにそこらじゅうを飛び回っている。
「え・・私、もしかして助かっ・・たの?」
正にそのとおりで、彼女は骨も折ることなく、全体的に言えば無事、だった。
「あ、ありえない・・すごい、すごいよ木達!有難う!!ぎゃっ!!」
一瞬がくんと体が落ちたかと思うとバキバキッと音を立て、は木の上から今度こそ地面に落ちた。
どすん、という音より先に痛みが先にきて、息が詰まる。
「い・・っけほ、何なのもう・・・・・あー頭痛い・・・ってかここ何処・・・?」
少しでも頭痛を和らげようと頭の位置を変えたの目に、
うっそうとした木の間から見ることができた建物。
「塔・・・」
まるで悪の帝王の城みたいな・・・・
そう、例えるならば黒の教団のような。・・・って。
「え・・・ええ?!!と、塔?!え?も、もしかしてもしかしてここ、きょ、教団?!!!」
うそだありえない!ともう一度目を凝らしてみるが間違いではない。
本当にあの教団が森を抜けたところにあった。
でも、なんだかおかしい。
私はレロから落ちてきたはずだ。と、いうことはノアたちの本拠地も、ここから近いのだろうか。
しかし辺りを見回しても、そんなものは見つからないし、
レロで飛んでいたときもそんなものは見当たらなかった。・・・ということは。
・・・・・・ということは?
一体何なのだろう。何が起こったのだろう。
しばらく頭をひねってみても、答えは出てこなかった。
とりあえず、科学班とやらに門を開けてもらうために、門のところへ移動する必要があった。
中にさえ入れてもらえれば、少なくとも食べ物くらいは・・・くれるかもしれない。
というかくれないと困る。私は今、正真正銘の文無しなんだから。
このまま教団横の森で餓死なんて認めない!・・・ちなみに、あの崖から降りる(落ちる?)勇気はない。
「お腹、すいたー・・・」
仕方なくは立ち上がった。しかし歩き出そうとして急な痛みによろけ、派手に転んでしまう。
見るまでもなく、先程ティーズなる蝶達に襲われたときの傷だ。
当てた手が濡れた事からしても、血が出ているのは明らかで、それも大量に、らしい。
再び立ち上がった。視界がぼやける。傷も、頭も痛い。
それでもなんとか一歩ずつ進んで、やっとのことで門の壁に手を突く。門番からはここは死角だ。
よってせめて門番の前まで行かなければならないのだが、の体力はもう限界だった。
手をついた壁に寄りかかり、ずるずると座り込む。血は未だに流れ続け、止まってはくれない。
あとは頼みの綱、見張りのゴーレムたちが私を見つけてくれるだろう。
そう考えて、は壁に体を預けた。
だけど。
一向にゴーレムからは何も聞こえてこない。
2,3匹のゴーレムが、明らかに私を見つけて目の前に浮いているのに、だ。
何かあったのだろうか。まさか科学班が一人もいない、なんてことはないだろうし。
・・そういえば、先程から教団の方から破壊音が聞こえてくる気がする。
加えて、誰かの叫び声も聞こえてくるようだ。 えーっと何々?
「マッチョは嫌だーーーーー!!!!!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ え、ええーーーーー?!?
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丁度リナリーが目覚めた時です。
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