傘立てトリップ
trip.2
「千年公〜やっぱりいませんよ、レロの奴」
「僕のところにもいなかったぁ」
がちゃり、と古そうなドアが開き、背の高い正装の男と、女の子が
千年伯爵の部屋に入ってきた。
部屋の中には千年伯爵と編み掛けのマフラー。
しかし今はそれも安楽椅子の上に置かれている。
「フム、困りましたネ・・・一体何処に行ってしまったのでショウ?」
彼の声は心底心配そうだ。
昨日の夜から消えてしまったレロは、依然として見つからない。
唯一の目撃者と思われるアクマも先ほどから姿を見ない。
万事休す、さあこれからどうしようかと考え込む三人。
そしてティキの上に黒い渦が現れたのは、本当に突然だった。
ぐおんっ。
「んー?・・・ってティッキー?!なんだよそれ?!!」
「は?何の事「ぎゃあああぁあいやあぁああああーーーーー!!!!!」
「え?」
ヒュウウゥゥ・・・
どすんっ!!!
「ぐえっ」
「ティッキー・・・?」
心配そうなロードの声。
しかしティキは既にノックアウトされていた。
何処からか落ちてきた+αによって。
ちなみに、もノックアウトだったり、する。
しばらくの沈黙のあと、おずおずと、ロードが問いかけた。
「千年公・・・コレどうするのぉ?」
「・・・どうしまショウ?」
--- * ---
「んー・・きもち、いー・・・」
ふかふかで柔らかな感触を感じたは、
何か暖かいものに包まれて身じろぎした。
今までこんなに気持ちのいいベッドに寝たことがあっただろうか。
家のベッドはもうちょっと硬いし、とゆるゆると考えて・・・
次の瞬間、ぱちりと目を開けた。
あ、あれ?じゃあここ何処・・・?!
「よ。お嬢さん。おはよv」
見上げれば十センチくらいのところに・・・浅黒い肌をした男の顔があった。
ああなんかかっこいいなあ・・と混乱したまま見上げていると、男はにっこりと微笑んだ。
なんだか見覚えが・・・ありすぎるような。
ええっと。浅黒い肌に、くるくるした髪の毛に、額の、十字・・・・・!!
「てぃ、ティキぃい?!?!!」
・・・はっ!い、いま私、思わず名前叫んだ?
え、ここにいるのって本物(多分)・・・だよね?!
一体何が起こって・・・私、どうしてこんなことに・・・・・?
不安がよぎる。
夏の朝、レロに似た奇妙な傘・・・イノセンス。
あれらが・・夢じゃ無かったとしたら。
本当に、本当にここに存在する私が私自身だとしたらこの世界は。
この世界も人も・・・・・本物?
じゃあさっき私が叫んだことも?
恐る恐るティキの様子を伺うと、思案顔で「俺、そんなに驚くような顔・・・?」などと呟いている。
不用意に人の名前を叫んだりして怪しまれるかと思ったけど、これなら大丈夫と
がため息をついたそのとき、不意に静かになって、
再び見上げた先には、顔は微笑んだままで、やけに冷えた声色のティキがいた。
「それにしても・・・どうして俺の名前を知っているのかな、お嬢さん?」
やっぱり。こっちの世界(???)では私は何も知らない一般人、のはず。
もしこれが現実で、私が・・・私だけがこの・・・D.Gray-manの世界にいるんだったら。
そんな人が伯爵側の、しかもノアの名前を知っていていいはずがない。
私は、軽々しく行動しちゃいけなかったんだ。
これは最悪の場合・・・・・
______殺される?
見つめてくる視線から目を離せない。体はこわばり、冷や汗が流れるのが分かった。
これはもしかして、もしかすると本気で殺る気なのかも知れない。
ああ、シチュエーション的には最・・・ッ高なのに。
神様、私何かしましたか?どうしていきなり殺されそうなんですか?
嫌だ、絶対嫌だよ・・こんなところで、こんな形で・・・死にたく、ない。
その願いが通じたのか、先ほどからを後ろから包み込む暖かいもの、
もとい、抱きしめている人物から繰り出された何かが、
私から約15センチ程の距離にあるティキの額を直撃した。
どすっ!!
「・・・え゛?」
「い゛・・・っ!何するんだよロード!」
「だぁってそんなに追い詰めちゃったらこの子が可哀想でしょお?
ティッキーったら大人気なぁい」
額からどくどくと血を流すティキ。
つづけて聞こえた声に慌てて身をよじると、原作どおりの、背中から私の腰に片方の手を回し、
悪戯っぽく笑っているロードと、
そのもう片方の手に握られたレロが見えた。先っぽには血がこびりついているが。
「それに、まだこの傘にも何にも聞いてないし・・・そぉだよねえ?」
「レ、レロは何にも知らないレロ・・・;!」
・・・哀れな傘はずっとそれで通しているらしい。
このまま私のことが喋られなかったら、この世界の人間として、まだ助かるかもしれない。
だがその前に、この状況をどうにかしなければ。
「・・あのう・・・私、どうしてこんな、ベッドなんかに?」
そろそろと切り出してみる。全員の視線がこっちを向くのがわかって、少し竦んだ。
やっぱり言わなきゃよかったかとが思い始めた時、ロードがそれに答える。
「ああそれはねぇ、皆で傘捜してたら何でかティッキーの上に黒いもやもやが現れてさぁ。
そしたらあんたが落ちてきてティッキーもろともノックアウトってわけ」
面白かったよぉあのティッキーの情けない声とかさぁ。
「・・・ロードっ(怒)」
「あはは、ごめんごめん! んでティッキーはそのあとなんとか起きたんだけど、
あんたはなかなか起きなかったからベッドに寝かせとこうってことになったんだよねぇ」
そこで一息ついたロードはでも、と呟き、を更にぎゅうっと抱きしめ、
ティキを睨みつけた。
「この野朗、俺が連れて行く〜なんて言っときながら、見に行ったら自分も寝てやがるの。
蹴落としても這い上がってくるんで仕方なく僕もついてることになったんだぁ」
まったく、困っちゃうよねぇとロードは毒づき、今度は優しい目で私を見る。
そしてさらに、私にとっては危険すぎる爆弾を投下した。
「だってこの子は僕のお人形になるんだもん、ねぇ?」
・・・・・へ?
ね、ねぇってぅえええ?ちょっとまってちょっとまって?!
お、お人形ってあのリナリーがされちゃったみたいなやつだよね?
いやあああ!それって殺されるより性質悪いって!
しまった。ロードの方が実は危険だったんだ!!
酷くおびえたの顔に気付いたのか、ロードは少し意外そうな顔をした。
「あれ、嫌ぁ?まあいっか。・・そういえば、あんた名前なんていうのぉ?」
「・・・です」
「じゃあ何処からきたの?見慣れない服装だけど」
「ええっと・・・日本です」
原作ではまだ日本は江戸だった気がするが、この際仕方がない。たとえ言ったとしても、信じてもらえないだろうし。
「ふうん?でもの髪は茶色だし、顔つきもアジアっぽくないけどぉ?」
「や、あのハーフなんで・・・」
「ああそっか。通りで英語ぺらぺらなんだぁ」
・・・え?今なんて?
あの、私英語とかさっぱりなんですけど。
いくらハーフつっても日本で暮らしてるんだし。
平均とるのに必死な私がどうして?
混乱する私をよそに、質問は続けられた。
「んー後は、どうやってここに来たのぉ?
ここは唯の人間が入ってこれるところじゃないんだよねぇ。
伯爵もそれだけがわかんないみたいで、聞いて来いって」
「えっと、それは」
「だっ・・駄目レロ!・・・はっ!」
レロの制止を聞き、気付く。
そういえばロードには ばらさないって約束したんだっけ。
ごめんよ、レロ。だけどもう遅いみたいだよ。
「・・・やっぱりこの傘のせいだったんだぁ?
ティッキー、レロを千年公のとこまで持ってってぇ。
後は千年公がやってくれるだろうから」
「えー?めんどくさいなあ。まあいっか。おーいレロ行くぞー」
「酷いレローー!!」
ロードの言葉に渋々起き上がったティキは彼女から泣き叫ぶ傘を受け取り、
私のほうを名残惜しげにじっと見てから出て行った。
残されたロードと私。
何か。
何かものすっごく嫌な予感するんですけど。
・・・。
「さって!邪魔者もいなくなったことだしぃ、
・・・お着替え、しよっかぁv」
「いやあぁあああーなんでぇええーーー?!!」
振り返った先の彼女の満面の笑みに、
・・は小悪魔を見た。
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結局お人形な運命。
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