傘立てトリップ

















玄関のドアを開けて、大きく深呼吸。

夏とはいえ、朝は やはり まだ涼しい。



両親が夏休み初日から旅行に出掛けて2日目、は大きなあくびをした。



今日は何をして過ごそう?

といっても選択肢はあまり無い。

昨日は漫画を読みふけったんだけど、今日は特に何も思い当たらないし・・・


しばらく考え込み、仕方がない、二度寝するかと回れ右。

ふと横の傘立てに入った傘が目に入った瞬間、

の体は硬直した。







(え、何コレ・・・


        ・・・かぼちゃ?)











いやいやいや。傘立てにかぼちゃはいくらなんでも有り得ないと思います!


小さくて、季節はずれな顔つきで・・・冷や汗をかいている風に見えるそのかぼちゃを、 は凝視する。

さらに言わせてもらえば・・・上下が逆さまのように感じるのだが。

柄が下に、なんてならないだろう、通常は。一体どうやったらそんな物理的に不可能な位置に持ち手が?



・・・って今はそんなことより。

声、掛けてみようか。困ってる様子(?)みたいだし。
・・・傘に呼びかけるなんて私どうかしちゃってるんだきっと。






「あ、あのう?」

そっと声をかける。しばしの沈黙。さらに傘立てに近づいてみた。

やっぱり何も起こらない。それならばそれが普通なのだが・・・
ならばこのかぼちゃは何なのだろうとが傘に触れた瞬間。





びっくうううっ!!

「っ!?!?」




傘が・・・動いた?!





突然の出来事に心臓も止まる勢いの。だが実は、さらに息絶え寸前な者がもう一人いた。



「ぎゃああぁあごめんなさいレローーー!!!」

「れ、れろ?」



今度は傘が泣き叫びだした。

何言ってんだろう。ていうかどうして必死に謝ってるんですか、この傘。

それにしても・・・この傘、何処かで見た、と思うんだけど。



うーん・・傘、かぼちゃ、語尾に「れろ」・・・・・




・・・・・・・あ。

え、まさか本当に?ありえるの?こんなことって。

でもまさか・・・



「レロはとうとう殺されるレロローーーーー!!!!」



まさ、か。





「――――――――――――――・・・レロ?」










+














とりあえず傘立てにはまったままでは哀れで そこから出してやると、

ようやくかぼちゃはこちらを向いた。そして一言。


「あれ・・ろーとタマじゃ、ないレロ・・・?」

どうやら人違いだったらしい。

そこまで恐れているとは・・・ロード、恐るべし。

ここに来たのがこんなのでよかった、とは心底ほっとした。








とりあえず家の中に入り、自分の部屋に入るとドアを閉めた。

それからいまだにびくびくしている傘をベッドに立てかけて、

その向かいの床にぺたん、と座る。

まず言葉を発したのは傘だった。

「こ・・っここは一体何処なんレロロ?!」

「ここは日本って国なんだけど・・・わかる?」

「ニホン・・?もしかして江戸レロか?」

え、江戸?・・ああそうか。向こうの世界では19世紀ぐらいなんだっけ?
じゃあもしかして、時代までトリップしちゃったんだろうか。


「え、うん、まあ何百年前にはそうだったけど。

 で、あなたは何でこんなところにいるの?

 というかどうやってここに来たの?」

「アクマから受け取ったイノセンスのせい・・ハッ!

 こ、これ以上は言えないレロ!ろーとタマや伯爵タマが聞いてたら・・・!!」


途中で傘が口をつぐんでしまったので詳しいことは分からなかったが、

どうやらイノセンスが関係しているらしい。でもレロは「アクマ」とも言った。

だとしたら・・・なんとしてでも聞き出すべきだ。そんなのがこっちにうじゃうじゃ来てしまったら・・・


そこまで考えて、はぞっとした。アクマだらけの世界なんて、耐えられない。ていうか、人類滅亡?

そこでは逃げられないように傘の頭(かぼちゃ部分)をぐわっしと掴み、

にっこりとした笑みに青筋を浮かべてもう一度問いかけた。

こういうのは丁寧な態度で臨むのが好ましい。

「もう一回教えて。どうやってここに来たの?」

「レ、レロロロ・・・;」

「いいじゃん、教えてくれても?

 大丈夫大丈夫、ロードには黙っといてあげるからv」




この状況からして大丈夫なわけが無い。




だがロードにだけは ばれなさそう、と判断したらしいレロは

ついに口を開き、諸悪?の根源、イノセンスの在り処を吐いた。











と、いうことで再び家の外の庭。

白い石が敷き詰められた中に、二つ一組のイノセンスがあるらしい。

だけどイノセンスは黒かったのですぐに発見できた。




ペンダント型の十字架と、十字架の形に抜けている同じ素材の丸いプレート。

十字架の方には持ち主のものらしい革紐がついていて、

血がこびりついていて嫌だったけど、黒くなってたし、

我慢して首に掛けてみると、それはの胸の上できらっと光った。


「ふうん、こんなのなんだあ・・・綺麗」

「は、早くそれをレロに渡すレロ!」

「いーやー。渡したくない」


イノセンスを取り戻そうとぴょ―んと跳ねてくる傘を掴んで

それ以上近づけないようにしながら、は二つのイノセンスを見比べた。

なんだか、十字架の大きさとプレートの穴の形があまりにも似ているような気がする。

ためしに入れてみよう。

えいやっ。



カチンッ



「おー、はまった はまった・・あれ、レロどうしたの?」

見ればレロが青ざめた顔で口をぱくぱくとしている。



「い、今思い出したレロ・・・

 レロがどこかに吸い込まれたのはイノセンスを一つにはめた時だったレロ・・・;」

「ええぇえええっっ!!?」




あわてて周りを見ても、もう黒い渦しか見えない。

何かに引っ張られる感触に無駄な抵抗をしつつも、

はレロをきつく締め上げた。



「ちょっと傘ァ!あんたなんて事してくれんのよ!?

 人の計画ぶち壊しじゃないのっ!」

「そ、そんなこと知らないレロロ〜!」



ああもう、と思ったときには既に、踏ん張っていた足がふわりと浮いていた。














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今日はジャンプの発売日です。←(=計画)


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